第12話 限界

 玉座の間へは会議室カンファレンスルームを出て広い廊下を右へまっすぐ行くと突き当りに存在する。

 3m以上はあるだろう堅牢な扉を潜るとそこには絢爛とした大広間が姿を見せる。そこは例の美女がいた場所を彷彿とさせるものだった。

 紅の絨毯が壇上の先に構える王の腰掛に続く道をたどりながら、二人の配下がその後に続いた。一人はメイド服を着た豹人レオパルトと、もう一人は燕尾服を着こなす男装美女。男装美女に関しては私の配下かどうかいまいち判然としない存在だ。管理者の補佐役という肩書が彼女にあるので、実質は私の配下ではないのかもしれないけれど、主従関係は存在するらしい。彼女は云わばダンジョンの化身に近い存在だから、そのダンジョンの王になった私に従うのが彼女の役目ということになる。だから、配下って云えなくもないわけだ。


 王の腰掛に私は細い腰を下ろして、ダンジョンの設定に取り掛かった。


 会議室にいても良かったのだけれど、私たち以外にはもう誰もいないので、なんとなく淋しくなり、この玉座の間で黙々と作業をしようと思ったのだ。会議室より断然に大きいこの玉座の間は意外に仕事に集中できた。広すぎると逆に蕭索な雰囲気は薄れるもので、私近辺数メートルしか空間が存在していないのではないかと錯覚してしまうくらいに、私は設定にのめりこめた。

 階層同士を繋ぐ転移装置の設定は当初予定していたけれど、結局やめることにした。配下全員に転移の指輪を装備させているので、配下は何時でも好きな所に移動が可能になっている。ただ、転移装置は後の街を発展させて行く上で必要になって来るので、最初の階層に1つだけ設置することにした。第1階層からダンジョン都市:第101階層への転移だけ。

 また、これを設置することで、ダンジョンの契約盤コントラクトボードが置かれる100階層へ簡単に行けてしまうため、防衛力は天から地へと落ちてしまう。なのでいっその事101階層と100階層の通路を無くしてしまえば100階層への道は1階層からのダンジョンの地道な攻略だけとなる。いずれこのダンジョンに住み始める仲間が101階層まで同じ様に上がってくるのはなかなかに難しいだろう。転移装置を置くことは必要不可欠になる。もし勇者がこのダンジョンに訪れて、1階層に造った転移装置で101階層まで転移しても、そこは空間として孤立したダンジョン都市となるのでダンジョンの防衛には一切支障はない。

 都市に訪れた勇者をどう対処するかはその時の勇者の態度によって決める。

 私の大事な仲間を蹂躙しようとするのなら、私の総力をもってこのダンジョンから排除してしまえばいいし、特に何もしないのなら、別に放置していても問題ないと思う。

 害をなさなければこちらも関与しない。それで良いと思う。

 無理に関わりを持って争いを生んでしまっては元も子もないだろうし。

 転移装置は1階層の隠れたところに配置するとする。

 1階層は大洞窟となっており、道が非常に分かりづらく、すんなり下層にはたどり着けないようになっている。ダンジョンの初手から侵入者を撃退する気満々の構造だ。

 そんな迷宮洞窟の中にぽつねんと転移装置を置く。配下にはその在処を周知してもらい、その情報を広めてもらう。勿論、情報はこちらに移り住むものだけにする。とは言っても、情報と云うのはなかなか管理が難しいもので、気が付けばいろんなところに漏洩してしまっていることが日常茶飯事だろう。なので、近隣諸国にダンジョンへの移住希望を集う支部を一つ設置した方がいい。移住希望者はその支部に訪れ私の配下の面談の後に住民登録を済ませて、101階層への行き方を説明する。もし行き方を登録者以外に口外した場合、重い処罰が課せ、二度と私のダンジョンに踏み入れられなくする。

 まあ、処罰は配下に任せるので、細かくは決めないけれど、そう云った方法で、情報漏洩を防ぎ、移住者を徐々に増やしていく。


 他国に支部を設置する計画は私の中で確定事項になっている。


 ただ、支部の建設はダンジョン外となるので、私の力の及ぶ範囲外にある。この城を造った時の様にボード1つでどうにかなるものではない。だから、支部の建設は配下にやってもらうしかない。


 ――となると、そっち方面に長けた配下を造らなければいけないのか。


 それはまた後日にやろう。

 今後の移住計画はそんな感じで行っていくけれど、それまでは宣伝係によってこのダンジョンの噂を聞き付けてきた同族は一階層まで出向いて案内するしかないか。

 でも、何時誰が訪れたかなんてわからないので、それも何か方法を見つけなければいけない。

 その方法について頭を悩ませていると、エルロデアが私のそれに答えをくれた。


「管理ボードには多岐にわたる機能があります。ですので、各階層のモニターも可能なのです。そちらで見たい階層を選択してその階層の地図が表示されますので、地図上で見たいところをタップしていただくと、そこの映像がボードに表示されます。表示は複数できますので同時にいくつもの状況を判断することも可能です」


 監視カメラみたいなものだろう。


「また警報システムもございます」


「警報システム?」


「はい。ダンジョンには貴方様が造った配下の様に特別な存在として登録できるシステムがございます。今はまだ、造られた配下だけしか登録されていませんが、今後、街を築くとなると多くの者がこのダンジョンに訪れ出入りすることになると思います。その時、警報システムを設置していたら、未登録の者は侵入者として警報が作動してしまいますので、住人の登録や交易時の商人の登録なんかはしておかないといけません。ただ、それさえしていれば、警報システムは非常に便利なシステムです。侵入者に即時反応して、設定した者へ警報が届きます。ですので早急な対応や、態勢を整えることができます」


 警報システムはなくてはならないものと云う事か。

 是非もなく私は警報システムをダンジョンの入口に設定して、階層守護者と私に警報が届くようにした。

 私は他に何か設定できることはないかと管理ボードを確認していくと、またもや意義のある項目を見つけた。


 【リンク】


「このリンクって項目はどういうものなんですか?」


「これは配下と貴方様を繋ぐ設定です。リンク設定された者の状態をリンク主であるものへ知らせるシステムです。例えば、遠く離れた配下が敵によって瀕死状態に陥ったりしていたら、その情報が貴方様に届くと云う事です。これは配下がダンジョン外にいたとしても有効となるものです」


 リンク設定と云うのは配下を敵に殺させないために必要な設定だ。特に、殆どダンジョンの外に出られない私は外との交渉、交易は全て配下に任せっきりになってしまう。そのため私のあずかり知らぬところで悶着があっても私にはそれを確認できない。そこで配下が傷を負っても私は関知できないので、非常に心配だったけれど、これでその問題は解決する。


「あともう一つ、このリンク設定と並行して設定していただきたいものがあります」


 エルロデアが提案した設定を私は直ぐに設定した。

 この設定で、私は配下を窮地から救えるようになった。まあ、私が戦力外だったら無駄なんだけれど。そこは地道に頑張っていきます。

 設定が済んだところで私は料理人の配下を造って今日の作業を終わらせることにした。

 ボードを開き、キャラクターの項目で多種多様な種族の中からまだ造っていない種族で料理人を設定した。

 ふさふさな茶色の毛並みが美しく、その綺麗な尾はクルリと折りたたまれて可愛らしさがある。栗鼠人エキュールという人の体に栗鼠の特徴を有する種族で、特にこれと云って秀でた特徴があるわけではない。ただ、こと食事の事に関しては非常に豊富な知識を持っており、常においしいものを食べられるように料理も非常に上手い種族だ。

 ふんわりとした白を基調とした服装に身を包み、頭には小さな三角の耳が慎ましく生えていた。


 料理係:エネマ・デュアラン


「初めまして。エネマにはこれから――」


 ……あれ?

 私の視界が急にぐらつき始め、身体の制御が利かなくなって、次の瞬間、鈍痛と共に私の意識はぷつりと切断された。


 

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