第25話 女神という存在
この世界には女神がいるらしい。
云わずもな。
私はその女神によって、この世界で生きているわけだ。
ただ、この世界の人にとっての女神という存在は、私の知っているものとは少し違うようで、もしかしたら、私の知っている女神は、実は神ではなかったのかもしれないと、デモンの言葉を聞いて思う。
「女神って、流転の神レイシア様にですか?」
……だれ?
デモンの云うレイシアという名の神を私は知らない。
私の知っている女神はサラエラ様だけ。
もしかしたら、この世界には信仰する神が幾つもあって、そのうちの誰かなのだろう。
私の知っているサラエラ様も信仰の一つに違いない。
「残念ながら、私が会ったことのある女神はその方ではないわ」
「え? そうなんですか? でも、女神と言ったらレイシア様しかいないはずですが……」
「ちょっと聞きたいんだけど、この世界では、信仰する神はいくつ存在するの?」
「えっと、確か3人です。先程言った流転の神レイシア様。創造の神ギヌス様。嚮導の神ボロウ様。この3人が、各地で信仰を持つ神となります。そしてこの中で女神と呼ばれるのはレイシア様しかいないのです。ですので、女神でレイシア様でないというのは可笑しいのです」
なるほどね。どうやら女神という存在に関しても少し調べる必要がありそうね
「ありがとう。ちなみにサラエラという神の名に心当たりはあるかしら?」
「サラエラ様ですか? すみません。私は存じ上げないです。その方が、マリ様がお会いになったという女神様なのですか?」
「ええ。私が会った誰よりも美しい方だったわ」
「マリ様や配下の方達よりもですか!?」
「美を司る女神といってもおかしくないわ」
「そんなにですか? それは、会えるのなら会ってみたいですね。でも、神様と対面できる機会なんてまずないですよね? マリ様はどのようにして神様と会う事ができたのですか?」
「言っていなかったかしら? 私、元はこの世界の住人ではないのよ。別の世界で、死んでこの世界にきた、いわば異端者なの」
「……へっ?」
吃驚に口を開けるデモン。
「転生者といった方がいいのかしら? だから、女神様直々にこの世界に転生してもらったから、女神様とも面識があるのよ」
「で、でも、転生者ってすごく珍しい存在だと聞いたことがあります。それに、転生者っていうのは、基本的に勇者様に多くあると聞きます」
「らしいわね。私もコーネリアからその話を聞いたけれど、事実なのよ」
「一口では飲み込めない話ですね。ですが、マリ様の言葉を信じます」
「ありがとう。まあ、そういうことで、私は直接女神様と邂逅できたけれど、私がお会いしたのはさっきデモンが云った3人とはまた別の方だったわけだけれど、これってどういうことかしら?」
もしかしたら、単なる管理の管轄違いとか?
「私では何とも……。もっと歴史や信仰に深い方たちの意見を参考にしたほうがいいかもしれません。私の知識はあくまで、最低教育の話でしかありませんので、教会に属する神官あたりに訊けば答えが見つかると思います」
教会に神官か……。
まあ、神が存在して、それを信仰する話があるのであれば、あって当然と言えばそうなのだけれど、これまで教会の存在を認知していなかったのはなぜだろう。様々な配下の報告の中に、1つとして浮上しなかったそれに、ふと私は疑問を抱いた。
「その教会と神官について聞いてもいいかしら?」
「あまり得意ではありませんが、私の知っている情報でよろしければ……」
「それで構わないわ」
そうして、デモンはこの世界にある教会と神官について話してくれた。
まあ、結論からすると、世界に存在する教会と言うものが、圧倒的に少ないことが原因だったようだ。
私が、知らないだけじゃなく、教育を受けていない者であれば、そもそも存在すら知らない者もこの世界にはいるらしい。信仰という物自体も、あまり世界に浸透されていないため、神官以外で、神に祈りを捧げる者はいないとのこと。
だから、きっと今ダンジョンにいる者たちに神の話をしたところで、私の求めているものの答えをもらえる可能性は低いだろう。
けれど、正直言ってこういうのはあまり生前の世界とも変わらない気がする。
前の世界でも神は様々いて、何を信仰するかは国や人によって違っていたし、真に信仰しているもの以外は殆ど詳しくを知らないものばかりだった。
かくいう私も、無神論者だったわけで、宗教云々といった者には無縁の人生を歩んでいた。
とどのつまりそれは、実際に神を見たこともないからで、実際に見たもの以外は信じれないという私のひねくれた性格の問題なのかもしれないけれど。だから、私はオカルトな話にも全くもって信じることはなかった。
けれど、今は違う。
私はこの世界に女神さまによって転生させてもらった。
この目で確りと視認できた事象だからこそ、私は神を信じるし、恩恵をくださった女神様には忠誠を捧げている。
もし仮に、この世界の神の中にサラエラ様がいなくても、私はサラエラ様の信仰を密かに進めていこうと思う。
敬虔なる信者というわけではないけれど、それくらいしなければいけないという使命感か――。とはいっても、これまで、そんなこと全くしていなかったのだけれど……。今さらながら、礼儀もへったくれもあったものじゃないわね。
「いかがでしょうか?」
「十分助かる内容だったわ。ありがとう。教会や神官についてはまたこちらで調べておくことにするわ。さて、そろそろ勉強に戻らなくてはいけないわね。随分と話し込んでしまった気がする。デモンも呼び止めてしまってごめんなさいね」
「い、いえ。マリ様とお話しできて幸せでした。貴重な時間をありがとうございます!」
ちょっと話をするつもりだったのに随分と長い間話していたみたい。
デモンもメイドの仕事がある中で、私の話し相手になってくれて本当に助かった。
休憩は一人でのんびりと過ごすのもいいけれど、こうして誰かと共に話して過ごすのも心が落ち着いて私は好きだ。
とはいえ、いつまでも休憩をしていては先へは進めない。
デモンは私のカップに新しい紅茶を淹れてから礼儀正しく蔵書室を出ていった。
それから、私は寝ているグラスを起こさないように静かにまた、種族に関する本を読み始めた。
そうして、私が全ての本を読み終えたのは大体一日半が過ぎた頃だった。
特段問題なく過ぎていった頃、ロローナから連絡が届いた。
どうやら、ドルンド王国から使者が来るとのことだった。
まだ、外界派遣用の配下の創造はできていないけれど、とりあえずドルンド王国との交易交渉の準備をする方が先だろう。
こちらから呼んでおいて相手を待たせては印象を悪くしてしまう。
だから、私は急ぎ交易交渉の準備に動いた――。
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