第18話 緊急招集

 メッセージが途絶えてから、私は直ぐにあることを思い出した。

 ロローナが云っていた怪しげな恰好。

 外套を被る謎の存在。


 件の少年。


 もしかしたら、カレイドやアカギリを傷つけた例の少年がここまで来てしまったのか。


 だとしたら、早急に対応しなければっ!

 それにロローナの身が危ない!


 私はこのダンジョン内にいる戦える配下全員へ一斉にメッセージを飛ばしつつ、転移で城まで移動した。


「緊急招集! 今すぐ玉座の間まで来るように!」




 ――玉座の間




 誰もいない広い空間に私は立っていた。


 配下へ連絡してからものの数秒だろう。

 たったそれだけで、招集をかけた配下全員がこの玉座の間に集った。

 階層守護者一同に、外界派遣組。そうそうたる面々がその場に揃った。

 私の焦りが声音で伝わったのか、皆険しい顔つきで私を見つめる。


「たった今、外界へ出たロローナが、ダンジョン直ぐの森で音信不通となったわ! 彼女は森の中で、怪しげな者が森を彷徨っていると私に連絡をくれた。外套を目深に被り種族も性別も不明の存在がいると報告を受けたわ。そして、その報告の最中、彼女の悲鳴と共に連絡が途絶えた。――至急、外界へ行き、ロローナの救出、並びにロローナを襲った者を捕らえ、私の元まで連れてきなさい! ただし、ハルメナとアルトリアスは私と共にここへ残って。以上っ!」


 配下たちは今まで見たことないほどの剣幕で、何も言わずに姿を消した。


 私は管理ボードでロローナの生存を確認する。


 特に瀕死に陥っている様子はない。


 命の危険があれば、管理ボードに乗っている配下の名前が赤く表示される。が、その様子はない。


 それを見て、私は安堵に胸を撫で下ろす。


 私はここを離れられない。

 だから、こういう時に何もできないのが非常に苦しい……。


 ただ、ここで彼女の無事を祈るしかないのだ。


 私は玉座に腰を据え、モニターを開く。


 ダンジョンの周りを映し出し、状況を確認する。


 一面の森が映り込むも、非常に静かだった。

 土煙1つ起きていない。

 ロローナがいったい森のどのあたりで例の存在を確認したのかがわからない。

 このモニターに映せるのもダンジョンを出てすぐのすこしの距離まで。

 100mも離れてしまえば効果範囲外になってしまう。

 画面を子細にみてもやはり何も映らない。

 どうやら範囲外にいるらしい。


 ハルメナとアルトリアスが私の方を心配そうに見つめているのを感じながら、私は画面から目を離さなかった。


 祈ることしかできないけれど、もし彼女が私の管理者権限が届く範囲に入れば、いくらでも対応することができる。

 彼女らに渡してある転移の指輪はダンジョン内なら自由自在に行き来できるようになってはいるけれど、あくまでダンジョン内だけの話。外界ではただの指輪。そんな彼女らは私の権限で、効果範囲内にいれば、強制的に転移させることができるのだ。だから、もし、彼女が効果範囲内に入ってくれれば、直ぐにでも彼女をメアリーの元まで転移させられるように、こうして私は画面を見続けている。



 そうしていること、1分ほどして、レファエナから連絡が届いた。


『マリ様。ロローナを発見いたしました。それと、標的も一緒です。これから彼女を救出し、標的を捕縛します』


(お願いっ!)


 握る手に力が入る。


 届いたレファエナの声も、怒りを感じるほどに震えていた。


 今、謎の存在の前には、私が誇る配下たちが揃っている。

 まずもって負けることはないだろう。けれど、相手の情報がなさすぎる以上、安心なんてものはない。

 もしかしたらという可能性が脳裏をよぎる。


 そんな想像はしちゃいけない。


 私の握る手に一層の力が入る。


 大丈夫! 大丈夫! 大丈夫! 大丈夫! 大丈夫!


 守護者は魔王と戦えるくらいに強い。

 ディアータも龍種を倒すほど強い。

 力だけの戦闘力であれば、最強のアルトリアスと互角レベル。

 そんな彼女たちがいるのだから……きっと大丈夫。


 吉報を待つ私の時間は酷く長く感じた。

 一瞬が永遠に引き延ばされているのかと錯覚するくらいに、まるで時間が進んでいない感覚に陥っていた。

 長い……長い静寂が、私を包み込む。


 ……。



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 ………………。




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 ………………………………………………『マリ様』










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