第3話 族長の許し
アランの稽古を始めてから二人はみるみる成長していった。
元から才能はあったものの、そこまでやる気になっていなかったが、聖王騎士団に直接会い話したことで、彼女らの意思は強くなり、自身の腕を磨くために努力するようになっていった。
けれど、そんな二人だったが、それぞれで得意なものが違っていた。
コーネリアは魔法を使うのに秀でていたが、ユニティスは逆に魔法は全然ダメだった。練習してもそれほど上達はせず、一般的な魔法を扱うのが精いっぱいだった。
その代わり、ユニティスが得意とするのは武術だ。これは弓術、剣術のことになるが、それに関しては今や村で指折りの腕利きにまでなっている。まだ齢14にしてそこまで上り詰めた者は過去に居ない程、彼女の実力は稀有なものだった。
とはいえ、まだまだ幼さもあり、稽古をつけているアランには一度も勝ったことはない。
「俺に勝てたら、晴れて卒業だ」とアランは彼女に云ったが、まだ当分それはかなわないだろう。
それに比べて、コーネリアの方は村の小さな図書館にこもって魔法の知識を深めていた。村にある魔法書に関してはそれほど、多くはないが、力をつけるには十分に備わっていた。村で魔法に長けている長命者から本にない魔法も教えてもらいながら様々な魔法を学び、実践して研鑽を積む毎日。
歳月が巡り飛躍的に成長を遂げていった二人。
その年、二人は24歳となった。
湖畔からほんの少し離れたところに立つ立派な建物。他の建物とは少し見た目が変わったものになっている。近郊でとれる石材を利用した組積造の建物。中は建物を支えるための柱や梁が丸見えの作りになっていて、非常に開放的な空間が創られていた。
二人は族長、コーネリアの父に呼ばれ、長命者30人ほどの前に座っていた。
村は狭く、皆が顔見知りでよく知る間柄だ。しかし、その場の空気というのは決した安らげる空間ではなかった。
皆が真剣な面持ちで二人のことを見つめる。
そんな中、族長が口を開く。
「二人に来てもらったのは他でもない。
「証の試練。それって、私たちが一人前であると認めるってことですか!?」
「いや、まだ認めていない。その試練を受けて無事戻ってきたら、その暁にお前たちをノーヴィスの成人と認めるのだ」
「ですが、お父様。証の試練を受けれるのは50歳からというのが決まりのはずです。まだ私たちはその半分にも満たないのに、どうして?」
「云うまでもなかろう。お前たちは今やこの村で一番の腕利きなのだからな。先日、アランに勝ったそうだなユニティス。見事!」
「い、いえ。そんな……。師匠の稽古の賜物です」
その場にはアランはいない。彼はまだ若く、この場には招待されていないのだ。
「その言葉、アランは喜ぶだろう。マベリウスも喜ばしいだろう」
「ああ。正直私より強いのは些か感じてしまうものはあるが。だが、自分の娘が村のトップになったことは本当に誇らしく嬉しい限りだ」
マベリウスは娘のユニティスを見ながら少し鼻を高くした。
「しかしお父様。力があるからと言って村の決まりを曲げていいのですか? しかも族長自ら……」
族長は驚いたように目を見開くと直ぐに大仰に笑って見せた。
「コーネリア。昔、村の掟を破って外へ出たお前が云うのか。本当に立派になったな」
その言葉に、はたと思い出して顔を紅潮させるコーネリア。
「まあ、勝手に決めたわけではない。一応この場に居る村の長命者の意見を交えて議論した末の結果だ。年齢が若いから、まだ早いという意見も散見されたが、最終的には証の試練を乗り越えた私たちよりも強い者が出来ないなどありえないという結論に落ち着いたのだ。そうだろ?」
「はい族長! 年なんて関係ない! 私たちなら余裕で試練に合格して見せます!」
「はっはっはっ! ユニティス。君は立派になったがその前向きで突き進んでいく性格は相も変わらないな」
「申し訳ございません族長」
「よいよい。むしろこれくらいの気概でないとな。コーネリアも、彼女に負けないようにな」
「はい」
そして一呼吸おいてから、族長は一同に告げた。
「この者たちを、証の試練へ挑戦するに値すると認め、現族長、ケーネス・ヴィレンツェ・ノーヴィスの名のもとに証の試練への挑戦を認める! 試練の日はこれより一週間後の早朝。二人とも準備を怠らぬようにな」
その場の集いはそれでお開きとなった。
会場から席を立つ者が続々といる中で、コーネリアとユニティスだけはその場に残っていた。
皆を見送ってから、二人だけになった後、少しの緊張がほぐれたのか、深いため息を吐きながら床へへたり込むユニティス。
「はぁ――。ちょっと緊張したよー。まさか、だね……」
へたりこむ彼女の隣で、ゆっくりとしゃがむコーネリア。
「うん。まさか試練を受けることになるなんて」
「でも、これで私たちは立派な成人となって、この村を出ることができるわ!
いよいよね。あと少しで、私たちの夢への一歩を踏み出せる!」
「私たちの力で、本当に入れるのかな?」
コーネリアの不安げな顔を覗き見るユニティス。
「なーに不安がってんの? 村一番の魔法使いに怖いものなんてないでしょ? 余裕よ。村一の武術の達人が云うんだから安心しなさい!」
族長さえ褒める彼女の前向きな姿勢は周りの者を引き寄せ明るくする。
そんな彼女の輝きにコーネリアはいつも救われている。
「そうだね。私たちならできるよね。ずっと鍛えてきたんだもの」
「そうよ! 私たちならできるわ!」
ユニティスは徐に手を持ち上げて拳を彼女へ小さく突き出す。
そんな彼女の拳に対して、コーネリアも同じく拳を突き出してぶつける。
すると満面の笑みをこぼすユニティスに、つられて笑顔を見せるコーネリア。
「にひひひ。ひと先ずは、目先の事ね。証の試練を合格すること」
「うん」
コーネリアの手を握り二人で立ち上がると、ユニティスは云う。
「証の試練。確かグローウィルの森にあるダンジョンを踏破することだったかしら」
「確かそう。泉の南西を進んだ先にある廃れた建物の下がダンジョンになっているとか」
「そういえば、森の一部は立ち入り禁止になっていたけど、あそこにダンジョンがあるのかな?」
幼いころ、森で遊んでいたころ、ふとした拍子で大人から言われていた立ち入り禁止の森の前まで行ったことがあったのだ。
その場所は堅牢な木の柵などで囲われていた。
「位置的にはそうだと思うよ」
「そっか。……一週間後か。私は今すぐにでも行きたいんだけどね」
「今すぐはちょっと、ね……」
「そう? 私は初めての実践に震えが止まらないよ」
「いや、まったく震えてないじゃん」
「気持ちよ気持ち。それより、こんなにも早くチャンスが来るとは思ってなかったから、いろいろと準備をしなくちゃいけないわね」
「準備? 試練用の?」
「違う違う。騎士団へ行くための準備よ。だって見てよこれ。こんな服装じゃ田舎者扱いされちゃうわ。もっといい服を用意しないと。第一印象は大事なんだから」
自身の服装をひらひらとさせながら、ユニティスは云う。
「気が早いんじゃない? そもそもまだ証の試練に合格してないんだから。そういうのは合格してからすればいいと思う」
「チ、チ、チ」
呆れ顔で溜息を零し、顔の間で指を振るユニに少しの苛立ちを起こすコル。
「善はね、急いでこそなのよ。知らないのかしら?」
その言葉に、コルは苛立ちに震える手を挙げて彼女へ云う。
「そろそろ、魔法を一発撃ってしまおうかしら?」
手のひらに迸る炎の揺らめきが現れ始め、ユニは慌てて誤った。
「ごめんごめん! 冗談冗談よ! そうよね。コルの言うように試練を終えた後でもいいわね。あはは……は?」
慌てるユニに溜息を零してから少し口角を上げるコル。
「ま、とりあえずは目先のことを確りと熟していこう。一週間後だけど、今までと変わらずに修練は欠かさずにね」
「ええ。なんなら、この後私と手合わせしてみない?」
ユニの提案に意外と乗り気で返すコル。
「いいわよ」
「やった! じゃあさっそく修練場に行きましょ?」
修練場はこの集いの場から少し離れた場所にある。
とはいっても整備された立派な場所ではなく、村人がそう呼んでいるだけの少し広い森の空間というだけ。
二人は建物からでると急いでその修練場へと向かった。
こうした二人での手合わせは何回か行っており、その指導をしていたのはユニティスの師であるアランだった。アランはユニティスたちにいろんな戦闘経験を付けさせるために、魔法使い相手として一緒に研鑽を積むコーネリアを指名したのだ。互いが苦手な相手をすることで戦闘能力を上げるのが目的だった。そのおかげで二人の成長は目を見張るものがあった。最初はそれぞれ悪戦苦闘を強いられていたが、次第に慣れ始め、今では互いの攻撃をうまく躱して反撃できるようになっていた。
そして、そんな修練も終わりに差し掛かろうとしていた。
証の試練を合格すれば、晴れて成人と認められ、森の外へ出る許可がもらえる。そうすれば二人は聖王騎士団を目指していける。これはそれまでの過程。だからこそ、一回一回を真剣に、そして楽しんでいる。
修練場には二人の交戦する音が激しく響く。
――そうして迎える、証の試練の日。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます