第10話 訓練所について

 岩窟人が去り、会議室には私と階層守護者たちだけとなった。

 私は席に着き、少し整理をした。

 今日できたことについてまとめると、受け入れ態勢の準備、街の構想についてに協議、冒険者に流したダンジョン情報。この三つができた。

 できたといっても、別に前もって計画していたわけではない。急遽舞い降りた事案がそれだったというだけのこと。ただ、今思えば好都合だったかもしれない。

 殺気の話し合いで、私の街がどのようになっていくのか、どういったものが必要だったかを再認識できた。

 ま、そんな中で訓練所の話が出た時はちょっと焦った。

 守護者より強い魔物レナトゥスの生成。

 これは正直なことを言うと、忘れていました。

 彼女が言わなかったら、このままずっと創ることのないまま、先送りになっていたことだろう。

 なぜか血の気の多い私の配下たちだ。なかなかの相手じゃないと満足してくれないだろうし、ここは確りと練りに練った魔物を創る必要がありそうだわ。それに、創って守護者たちだけにお披露目するだけじゃもったいないから、確りと階層内にも配置することにしよう。

 そうすれば防衛の強化にもつながる。

 一石二鳥だわ。


「どうかされましたか?」


 どうやら顔がにやけていたらしい。


「何でもないわ。――それで、さっきの話で出た件でみんなに一応聞いておきたいんだけれど、訓練所の仕様に関して。訓練所では魔物と戦い訓練するっていうことであってる?」


「それで問題ないかと」


 サロメリアが答える。


「僕としては、強い相手と戦える場所だったらなんでもいいです!」


「言い出しっぺがそんな適当でどうする」


 モルトレの言葉にゼレスティアが苦言を呈する。


「私的には守護者たちより強い魔物を創りだすのには少しばかり抵抗があるのよね。知性を持たない魔物が貴方たちよりも強くなってしまっては、後々脅威になってしまうんじゃないかってね」


「ですがそれは大丈夫なのではないのですか? マリ様はこのダンジョンの管理者である以上、マリ様の命令には絶対に逆らえないうえに、マリ様には一切の攻撃をしないはずです。実際に素材調達で一生にダンジョンを潜られた際も魔物には襲われていなかったと思います」


「確かにそうなんだけれど、もしもの時とか考えてしまうのよね」


「もしその可能性があれば、マリ様の力で強制排除されてしまえばいいのはないのでしょうか?」


 レファエナの言う通り、私は管理ボードで魔物の生成もできれば任意でそれを消すことだってできる。別に心配するようなことは一切ないのはわかってはいるけれど、やっぱりすこし怖いと思ってしまう。


「そうね。そういう手段でどうにでもなるわね。……わかったわ。貴方たちが満足できるような相手を頑張って考えておくわ。それと、これは私からの提案なのだけれど、訓練所で守護者たちも訓練する場合、流石に知性のない魔物相手では流石に訓練にもならないかもしれないから、少し趣向を変えた相手と戦えるようにしたいのだけど、どう?」


「それはどういったものですか?」


 最強の魔物を創るよりもすごく簡単なもの。それでいて知性があり、なかなか実践的な存在。


よ」


「影、ですか?」


「そう。貴方たち守護者の影と戦うというのはどうかしら? 能力をそのままコピーした相手との戦闘訓練。すごくためになると思うのだけど?」


 一同が顔を見合わせる。


「なるほど、それは実に面白いものですね」


「他の守護者を相手に戦うのかぁー! めっちゃ楽しそう!」


「わ、わたしは少し怖いです……皆さんお強いので」


「流石に向き不向きもあるしな、得意な相手もいれば、苦手な相手もいる。しかし、それこそが訓練の醍醐味と言うもの。いい修行になるかもしれません」


「それじゃあ、私はゼレスと最初に戦おうっと!」


「なら、私は勿論アルトリアスを相手にして叩きのめしてしまおうかしら?」


「貴様なんぞに吾が負けるだと? いくら分身であろうと、貴様如きに負ける吾ではない。むしろ、吾の影と戦って己の実力を知って落ち込まないか心配だな」


「守護者の影ですか……」


 レファエナはすこし口ごもり、言葉をつづけた。


「マリ様の影はないのですか?」


「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」


 守護者一同が鋭い目を私に向けた。


「わ、私!? 必要かしら?」


「マリ様の配下である以上、常に高みを目指しております。そんな私たちの目指すものは等しくマリ様であります。マリ様のお力に少しでも近づくためにも、マリ様の影との戦闘を重ねる必要があるかと思います。もちろん、同じ守護者である者同士の戦闘訓練も重要であると思いますが、やはり、最強の存在であるマリ様の影と手合わせをしたい気持ちは非常にあります」


 レファエナの言葉に一同が首肯する。


「まだ先のことだし、そんなに直ぐってわけには行けないけれど、いずれは創るようにするわね」


「ありがとうごさいます」


 なんだか思わぬ方向へ話が進んでしまった気がするわ。

 私はあくまで彼女たちのためになる訓練相手を提案するはずだったのに。

 てか、この訓練の話だってまだ当分先のことになるのに、どうしてここまで話が膨らんでしまったのだろう。

 強い魔物との戦闘経験を積ませてダンジョンに住む者の力をつけさせる話がこんなにも膨れるとは……。

 でも、この訓練所という案は本当にいいものだと改めて思う。

 この訓練所を通して、私の街で冒険者をする者たちの力をあげることができれば、強い冒険者を育成して、素材調達にも行けるレベルになれば、十分な素材を定期的に確保できて、商品が枯渇することなく最良の循環ができる。

 でも、何度も言うけど、まだ遠い先の、未来の話。

 どうしても浮足立ってしまうのよね。


 とりあえず、現状進めるべき案件は――今後必要になってくる配下のことかしら?


 先ほどの岩窟人との話で階層転移所だったり、自警団だったりと、様々なところで新しい配下が必要になってくる。

 だから、私は今後どれほどの配下を生み出さなければいけないのか、事前に把握しておく必要がある。その後、創造する配下の優先順位を決め、定期的に創造していくようにしなければいけないだろう。まとめての創造は酷く体力を消費してしまう。そのため、創造するにあたり、ある程度インターバルを設ける必要がある。

 想像するだけで大変なのがわかる……。


「ひとまず、訓練所の話はこれで終わるとするわ。それで次なんだけれど、階層転移所や、街を治安を守る自警団を発足するにあたって、何人くらい人員が必要か考えましょう」


「先ほど見せてもらった地図から判断すると、街全体の規模はかなりある様に思われます。ざっとみても5万人以上は住める大都市だと思います。そんな街全体の治安維持となれば、自警団の人員はかなり必要になるかと」


「あの広さなら、最低でも8人は必要でしょう。物理的な話で言えばそれが限界だと思われます。一日街全体を確認するのに、そのくらいで分散しなければ回り切れないと思います」


「それでもまだ足りないんじゃない? 僕としては15人は欲しい気がするけどな」


「確かに多いにこしいたことはないが、多ければ多いほどマリ様の負担は大きくなる。配下の貴様がマリ様の負担を考慮しないでどうする」


「う、ごめんなさい」


「いいわ。気にしないで。負担といっても一時的に魔力を使うだけの話だし、もしもの時はまた貴方たちに魔力の補給をお願いするわ。だから、気にせず必要な人数を提示してほしいの。それをもとに、私なりに優先順位をつけて配下を生成したいから」


「では、20人ほどかと。多いかもしれませんが、そのくらいいれば一人当たりの負担は少なく済ますし、自警団としての見張りを交代できるのではないでしょうか? 昼の見張り役と、夜の見張り役として交代制で10人ずつ」


「確かにそういうのが私としては理想かな」


 不眠不休で常に働かせられないし、確りとした休息をみんなには取ってほしいのよね。


「とりあえず、最初は20人を目安に考えておくとするわ。そのあとで、少しずつ増やしていけばいい。種族なんかはどう? そういうのに向いている種族とかってある?」


 そう聞いては見たけれど、希望する反応は帰ってこなかった。


 まあ、確かに自警団向きの種族って何? って感じよね。


 だから、種族に関してはその時、適した者を管理ボードから探していくとするわ。


「なら次に住人のためのダンジョン転移門が置かれる階層転移所の人員だけれど、これは門の数だけ用意すればいいかしら?」


「マリ様はどれほどの転移門をご用意されるおつもりですか?」


 レファエナがすかさず聞いてきた。


「そうね。階層の形質が変わるところすべてに設置する予定だったから、10か所以上かな?」


 守護者たちが守護している階層に関しては守護階層が一律の階層形質というわけではなく、守護する階層内で2つの形質があったりすることもある。そのため、守護者の数以上に転移門というのは必要になってくる。


「となると、階層転移所だけでも10人以上ということになります。それは流石に負担が大きいと思われます。転移所に関しては入り口に二人ほどで大丈夫ではないでしょうか? 入り口で確認をして、許可できるものだけ中へ通していくようにすれば、わざわざすべての転移門に門番をつけなくて済みます」


「わかったわ。じゃあ、レファエナの提案通り転移所は二人体制にするわ」


 とはいえ、それでも相当の数の配下を創らなければいけないのは確かだ。


「十分に考えがまとまったわ。みんなありがとう。さて、今日はこの辺で会議はお開きにしましょう。また少し岩窟人たちに進捗を確認してから、ディアータたちに話を聞きに行こうと思うわ」


「かしこまりました」


「また後日この話の続きをするわ。それまではみんな自由にしてていいわよ」


 今日は取りあえず、来訪してくれたテテロ村の住人達と、ポーレンドの娼婦たちには確りと休息をとってもらって、また明日からいろいろと話を聞こうと思う。

 明日から、娼婦たちには私の城でメイドとして働いてもらうため、事前にカテラにも報告をしておかなければいけない。

 メッセージでカテラに繋げると、彼女はすぐに私の前まで姿を現した。


「明日から、メイドを雇うことになったわ。貴方の直属に着けるから、色々と仕事を教えてもらえる?」


「かしこまりました。人数はどのくらいになりますか?」


「確か14人だったと思うわ。大変だと思うけれど、よろしくお願いできるかしら?」


「もちろんでございます。マリ様の期待に沿えるよう教育いたしますのでご安心ください」


「期待してるわ」


「はい」


 そしてカテラは自らの仕事に戻っていった。


 私は徐に管理ボードからこの城の全体図を出してみて、その大きさに驚くばかり。

 こんな広いところをたった一人で行おうなんて無謀と思ってしまうレベル。娼婦たちをメイドとしてこの城で働かせれば、カテラの仕事もだいぶ減るだろう。今日にいたるまで彼女には想像ができないほどに大変な思いをさせてしまったに違いない。

 てか、この城部屋多すぎないか?

 一度、ヒーセント様を案内したときは手あたり次第扉を開いて確かめていったけれど、それでもまだ開通していないところは多分に存在する。

 管理ボードを確認するだけで、用途別の部屋が20部屋近くある。


 少しだけ、見て回ろうかしら?


 私は席を立ち、守護者たちについてこなくていいと告げてから、転移の指輪にて、未確認の部屋の一つに転移した。


「その名の通り、なかなか物騒なモノばかりが置いてあるのね」

「そのようですね。しかし、どれも錆のない新品そのもののようですね。これでは恐怖心が和らいでしまいそうですが……」


「え?」

「ん?」


 私の独白に来るはずのない返事が来たことに私は驚いた。


「どうしてレファエナがいるの?」



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