第22話 抱える課題
前の話し合いで、配下のみんなが、私にあまり苦労を掛けないようにと、新しい配下の創造はしなくていいという話をしてくれたばかりで、エルロデアはいったい何を言い出すのやら。
「確かに、彼女たちの意見も理解できますが、しかし、このまま燻ぶっていてもあとで後悔することになります。あの時、もっと早くに動いていれば、と」
とはいえ、彼女たちにああは云われたけれど、実際のところエルロデアが云ったとおり、魔力に関しては殆ど回復している。だから、造ろうと思えば正直造れる。ただやっぱりダンジョン管理のような少量の消費とは違って、意志ある存在を創造するのは桁違いに魔力を消費するからかなりの疲労感を強いられる。そのため無暗矢鱈にはしないようにしているのだ。
けれど、彼女の意見も頷ける。
造れるのなら出し惜しみしていないで、どんどん造っていったほうがいいに違いない。疲れるとはいえ、それは一時的な話。継続してしんどいわけではない。だから、私が我慢すればいいだけの話なのだ。
……とはいえ。問題はそれだけではない。
私の創造できる種族はこのエルロデアが保有する知識の分だけ。それがあまりにも多すぎる。
どのくらいかは正直細かく数えていないので確かなことはわからないけれど、ざっと100はあるように思う。管理面をスワイプしていっても見慣れない種族名がずらっと羅列されていく。その中から選んでいくというのは存外しんどい……。
これまでは守護者たちやエルロデア、他にもいろいろな子たちにアドバイスをもらいながら、どんな種族がいいのかを聞きながらやっていたから、正直なところ、あまり私自身は考えていなかった気がする。それこそ、最初の子たちくらいじゃないかな?
でもこんなこと言ってしまうと語弊があるわね。
あくまで、種族に関してはの話。彼女たち一人ひとりの物語は確り考えているわ。
断じて擁護ではない。事実よ。
「でしたら、今回は私の助言無しで是非、配下の創造をなさってはいかがでしょうか?」
彼女の私の頭の中を盗み聞く能力は何とかしてほしい。
……って、
「私一人でっ!?」
「まま?」
少し声を大きくしてしまった。
「ごめんね。なんでもないわ」
顔をあげて改めてエルロデアの方を見ると、彼女のなんともまあ嫌らしい表情ときたら……悪女そのものだ。
「マリ様自身で、すべて考えて創造することで、生み出された配下はきっと至高の喜びを得るのではないのでしょうか?」
「いちいち大げさなのよ」
「ですが、そのことは他の者には他言しない方がいいかもしれませんね。先ほどのことも踏まえて。嫉妬に駆られてマリ様に迫るようになってしまっては困りますでしょうし」
「……っ!」
エルロデアは一歩引いてから改める。
「種族についてお困りのようでしたら、蔵書室へ赴いてはいかがですか? あそこには私の持っている知識全て記された書物が置かれております。それぞれの種族に関しての細かい説明も然りです」
「……わかった。なら行ってみるわ」
私は膝上のグラスを抱き上げて、立ちあがってから、ちらりとエルロデアの方を見る。
「本当に手助けは、無し?」
「してもいいですが、その時は先ほどの話を配下の皆様に暴露させていただきます」
「なっ!? ……わかったわ。素直に一人で考える」
「はい」
彼女なりの後押しなのだろう。
そう、思うことにするわ。
私はグラスを連れて、城内の蔵書室に転移した。
天井まで伸びる書架に隙間なく陳列される書物たち。
昔からあまり本を読むのが好きではなかった私にとって、こういった本に囲まれるようなところは縁遠い場所だった。
ただ、受験や卒論とかで調べ物や勉強の時だけは、こういった所にお世話になっていた。
この世界に来てからも、ここへは何度か足を運んではいる。この世界について、ちょっとした調べ物をする際には利用している。
けれどそれだけ。
趣味でここへは一切来ない。だから、今私の視界に広がっている書物の1割も読んではいない。0.1割? いや、0.001割かな?
それほどまでに私はこれに関しては造詣がないうえに、存在する書物の量が多いのだ。
「さ、あちらです」
当たり前のように気づけば前をエルロデアが歩いている。
そうして案内された書架には、この世界に存在する種族に関する本が並んでいた。
「配下を一から考えるのであれば、本来はこうしてここから知識を得て、理解してから創造するものです」
今、私の胸に大きな槍が突き刺さった。
「わ、分かっているわ」
「では、応援しています」
そう云って、彼女は姿を消した。
さて、どうしたものか。
眼前の壁に目を向けてため息を一つ吐く。
これは流石に骨が折れるわね。
私一人で考えるとなると、つまりはまず、種族それぞれの特徴を網羅しなくてはいけなくて、それから、今私が求めている者にふさわしい者を選抜しなければいけないということ。
そもそもが難題過ぎて取り掛かろうにも本に手が伸びない。
でも、ここで足踏みしていても仕方がないことは重々承知している。
頑張れ私!
そして、私は一冊の本に重い手を伸ばした。
ずっしりとした重みのある本を開くと、活字が私を迎え入れてくれた。
『こんにちは!』という活字の挨拶に、私は笑顔で『さようなら』と、それを閉じようとする。
しかし、私の意思はそこまで弱くはなかったようで、寸でのところで閉じる手が止まった。
昔から、やっぱり見開きにぎっしりと並べられる活字には気圧されてしまう。
けれど、ここは成長といえるのか。なんとか堪えることができるようになっていたことに、すこし驚いた。
改めて、視界に映りこむ活字たちに意識をむけて、私は決心を固める。
よしっ!
そして、私は手に持っている種族に関する本を漸くの想いで読み始めていった。
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