第5話 街づくり計画始動!
綺麗に片付いたテーブルにて、私と
話は今後の計画へと繋がった。
「早速ですが、城外に街を造ろうと思うのですが、そのことに関して、専門家のドンラさんたちに話を聞きたいと思います」
そんな私の切り出しに、彼らは一斉に真剣な顔つきになった。
「その話ですが、まず、マリ様はどのような街を造りたいとお考えなんですか? その想像図が曖昧だととっかかりもできません」
「そういうものなんですか? ですが、具体像といわれても何と答えればいいか……。私が考えるのは、活気のある街で、よその国からも沢山の人が訪れてくれるような、そんな街をここに造りたいと考えています」
「活気が必要ならまず、定住人口を一定数確保する必要がるんじゃないか?」
ギエルバがドンラに相槌を打った。
「そうだな。とりあえず、この段階で見えてくる問題を挙げると人口と資源くらいだろうか?」
「人口に関してはすでにこっちのほうで動いています。彼女たちがギルドで呼びかけをしてくれいます」
アカギリとカレイドのほうをみて云う。
「ですと、資源ですか。土地はこの城の外をお考えですよね?」
「はい。この階層の広さなら足りないことはないと思います」
「人口は口コミや呼び込みなどで徐々に増やしていくとして、次の資材に関してですが、建物や道などを作るなどに際して必ずそれに必要な資材があります。そういった必要な素材の物流に関して何かあてがあるのでしょうか?」
「その資材ですが、このダンジョンで取れるものを使用してはどうでしょう? 他国からの輸入するとなると、結構不便な気がするんですよね。お金だってかかるし、ダンジョン内に物資を運ぶこと自体もなかなか大変だと思いますが、どうですか?」
ダンジョン内のものだけで済むならそれが一番いいんだけど、さすがに全てがそろうのは無理があるかな?
「このダンジョンで素材が取れるんですか? ダンジョンっていうと、取れる素材に偏りがあるものなので、すべてが揃うことはないと思いますが……」
「確かに。大抵のダンジョンでは一定の階層環境が決まっているから、取れる物資は一つのダンジョンで一物資くらいに考えるべきです。だから、すべてを揃えるのは不可能です」
「たとえばどんな部材が必要なんですか?」
「そうですね。まず木材は絶対必要です。次に石や土といったものも欲しいです。今あげた材料も色んな種類のものがあるため、用途ごとに種類の違う材料を使っていくので、事実上ダンジョン内で揃えるのは不可能なんですよ。それに、上位種の魔物の素材もまた必要になってきます。無理じゃないですか?」
ん? ギエルバの云った材料ならこのダンジョンでそろうんじゃない?
「だぶん、それなら全部このダンジョンでそろいますよ? 上位種かどうかはわかりませんが、強い魔物ならこのダンジョンに沢山いますし、階層ごとに多種多様な環境設定がされているので種類の違う材料が取れると思います」
「そんな馬鹿な!? それはつまり、最難関のSランクダンジョンということになりますよ?」
「そうらしいですね。詳しくは知らないんですけど、この世界の人がそう言っていました。珍しいんですか?」
岩窟人はそれぞれ顔を見合わせて小言で話を初めている。
何をそんなに慌てているのだろうか。
話がまとまったのか、ドンラが口を開いた。
「Sランクのダンジョンでしたら物資の調達には最適な場所なのは確かです。ですが、それ相応の実力を持ったものでないと、そもそもダンジョンでの探索などできはしません。この世界で一番危険な場所、それがSランクダンジョンなのです。常に死と隣り合わせの世界と多くのものは語ります。気を抜けばいつでも魔物に遣られてしまう。そんな場所での資材調達など、不可能に等しいのです。ですが、問題はそこではないんです」
「それはどういうこと?」
「このダンジョンがそれほどに死と隣り合わせの場所だということは、そもそも街として成り立たないのではないかという問題です」
「つまりですね、辺境に構える国や町はこの世界ではいくらでも存在します。問題はここがダンジョンだということ。ダンジョン内に街を造るとなると、必ず他国との交易が始まります。自給自足で成り立つ街にはマリ様が望む活気などありません。外界から人を呼び、商売をする。そうして街というものは活気を生んでいくのです。ですが、街へ行くのに死の危険がある道を行かなければいけないところでは、人はまず来ないでしょう。人が来なければ街は成り立たちません」
「そういうことでしたか。でも、それもも問題はありません。このダンジョンに出没する魔物は確かに強い者ばかりですが、そもそもこの街へ来るのに、このダンジョンの大半は通りません。実際に、ドンラさんたちはここへ来るまでに通ったのは洞窟の一フロアだけだったはずです。しかも、魔物もいなかったと思います」
「確かに……」
「この、街を造る予定の場所は101階層にあたりますが、100階層目と、この101階層にはつながる道がありません。唯一の入り口は今のところ1階層目の転移門でしか来ることができないのです。ですので、外界から来る人がこのダンジョンの脅威にさらされることは一切ないのです。間違えて転移門を通らずに2階層目に入ってしまわない限り、絶対の安全を保障できます」
「……そういうことなら、問題はないかもしれません。では、少し話をもどして、資材の調達の話になりますが、このダンジョンで取れることは理解できましたが、採取するのにも危険はつきものだと思います。そこはどうお考えになりますか?」
「それなら、配下たちにとって来てもらいます。ドンラさんたちには家をご用意してますからそこで休息をとってもらい、必要な資材が集まり次第作業を行っていただこうかと思っています。ですので、必要な材料をまずはリストアップしてもらい、それを頼りに資材調達を行っていきます」
「なら、私たちも同行させていただきたい」
「必要な部材をつたえるのはいいが、部材の見聞きは熟練した俺たちのほうがわかるだろう」
「マリ様、そういうことですので同行を許してもらえますか?」
うーん。
彼らの同行は別に構わないけど……。
「危険ですよ?」
「理解しています。ですが、私たちにも職人としての矜持があります。最適な素材で最高の品を作り上げる。それが
彼らが怪我をしてしまっては計画も進まなくなるし、できれば安全圏であるここに滞在してもらったほうがいいけれど、彼らの気迫に押されてしまった私がいる。
「わかりました。ですが、なるだけ彼女たちと共に行動してください。彼女たちから離れてしまうと警護が届きませんので、非常に危険です。そこだけは約束してください」
「かしこまりました」
「じゃあ、さっそくですが、必要な材料をこちらに書いていただけますか?」
私は異空間魔法で収納していたものの中から、
彼女がドンラのもとへ巻紙を届けると、私はそこに材料を記載してもらう様に伝える。
「異空間魔法を使えるのですね」
ドンラが訊く。
「はい。私の配下は全員使えますよ」
「そりゃー凄い。あれがあれば運搬も楽なのにな。俺たちもつかえりゃーな」
ギエルバがそう零す。
ドンラに必要な材料を書き出してもらいそれが私の手元に届いた。
「こんなにあるんですね?」
ほとんど見てもわからないものばかりだった。
横文字が羅列されてるだけの巻紙はさておき、やはり、彼らなしでは資材調達も難しいことが十分理解できた。
「では準備は整いました。さっそく行くとしましょう! 善は急げです」
「って!? マリ様も行かれるのですか?」
「勿論です。私だけ城に残るのなんてできませんからね。それに、このダンジョンに生息する魔物は管理者である私には一切攻撃はしてきませんので、私の安全面は問題ありません。むしろ、私の近くにいれば安全かもしれませんよ」
正直な話、まだ知らないこのダンジョンを探索したいだけなんだけどね。
まあ、資材調達が一番重要なことだけど、ついでに楽しみたいじゃん。安全が確保されているなら問題なく私もこの危ないダンジョンを探索できるし、頼もしい彼女らと共に少しばかりの遠出ができるのも楽しみだ。
とはいえ、このダンジョン内だけだけど。
いつかは私もダンジョンの外に出る機会が訪れればいいんだけどな。
以前設定したものでなら状況的に外界へ出ることができるけれど、そうなることはできるだけ避けなければいけない事態だし。望みたくはないかな。
「でもその前に、転移門を設定しないといけないですね」
「転移門? 先ほども話に出てきましたが、それはいったい何でしょうか?」
「このダンジョン内の階層を自由自在に行き来するための装置です。私や彼女等にはこのダンジョン内を自由に行き来できる術を持っていますが、それ以外のものが同様に行き来するには転移門が必要なのです。ひとまずはその転移門を必要なところに行けるように設定、設置を行わなければいけません。先ほど見せてもらった必要材料ですが、どういったところにあるかを教えていただけますか?」
どういった環境にあるものなのかを彼らから聞き、それをもとに、管理ボードで階層を確認して必要なところに転移設定を行っていく。
管理ボードでのこういった細かい操作をするのは久々でなんか新鮮。
今回一番重要な材料は木材と石材の二種類。あとの細かい素材はおいおい集めて行けばいいとして、建物の基盤となるにも欠かせないのが木材だし、道を整備するにも木材は必要になってくるらしい。ということで木材なら森林地帯が適切かな。樹海なんかもあるけれど、樹海だと湿度もあるから建材としては少しばかり不向きだろうとギエルバが助言してくれた。
森林地帯は21階層から24階層までで、25階層から30階層が樹海地帯となる。他にも森がある階層は無数にあるけれど、木が密集している階層はそこくらいだった。また石材は化粧石材と下地石材によって入手するものが違うため階層がかなり飛んでしまう。そもそも転移門によって移動するため、階層が離れていてもさほど関係はないけれどね。
転移門はいつでも撤去と増設が可能なため、今回だけ、一時的にたくさん配置することになる。
城にある袋小路となっている廊下に最初の転移門を設置し、20階層へ繋げた。
そして、21階層から58階層へ繋ぐ転移門を設置。
58階層は鉱山地帯となっており、鉱山洞窟がフロアになっている階層らしい。そこで入手するのは下地石材であり、道路などに使う慣らし用の石らしく、頑丈な鉱石を砕いて道を固めるらしく、その上に化粧石材という実際に人が踏むような石を敷くらしい。
化粧石材は80階層から88階層まで続く炎獄地帯という火山の火口付近の様なマグマにあふれた危険地帯で手に入る石材を使うらしい。
「俺たち
確かに、
そう、私が考えていると話が聞こえていたサロメリアが問題ないといった顔で言う。
「私には熱を防ぐための
そういう彼女の目はなかなかに冷え切っていた。
「そ、そう……。なら、一緒に来てもらおうかな」
「かしこまりました」
「少しいいですか?」
ルドルフが手を挙げる。
「俺とポントスは正直資材の種類もそれほど詳しくないから、そういった面はドンラやギエルバに任せて、こっちはこっちで、城外の土地を区画整理しようかと思うんですけど、どうですか?」
「確かにその方が効率はいいかも知れないな。どうですかマリ様? 街をどのように構成していくかは俺が考えます。それを二人に進めてもらっているうちに俺たちは資材の調達をするのは?」
「それは名案ですね。ですが、土地はかなり広大ですよ。それを二人だけで整理するなんて流石に無理をさせすぎてしまいますのでこちらも力をお貸しいたします。シエル、オーリエにはルドルフさんたちの手伝いをお願いするわ」
「かしこまりました」
「ええーー!!」
シエルの嫌気の声が高らかに響いた。
「私はマリ様と一緒に探索行きたいです! ひどいです! 殺生です!」
「おいシエル。マリ様に我儘をいうでない。マリ様を困らせるなんて守護者としてあるまじき行為だぞ」
「ご、ごめんてばーゼレス。でも私もいっしょに行きたいし……」
シエルとゼレスティアは他の守護者同士より少しばかり仲がいいため、シエルはゼレスティアのことを愛称で呼んでいた。
配下がこうして仲良くしているのを見ると本当に和む。
「ごめんねシエル。また今度望みを聞いてあげるから、今回は彼らを手伝ってくれる? オーリエもお願い」
「……わかりました」
「私は別に、だ、大丈夫です。マリ様のご命令とあれば、喜んでお受けします」
主張性があるシエルやモルトレとは違って、オーリエは非常に自己主張の少ない子だ。でももう少し自分の意見を云ってくれてもいいと思うけれどな。
まあ、今のところ素直に聞いてくれると非常に助かる。
「では決まりということで、すみませんマリ様、この城の外の地図なんかありますか? できればなるべく大きめだと助かんるですが」
階層全体の地図か……。
管理ボードで階層の地図はモニターとして出せるけど、紙媒体となると難しいかも。
私はエルロデアを呼ぶと、管理ボードで地図を紙媒体に移すことができるかどうかを訊いてみる。
「はい可能です。ですが、管理ボードでできるわけではありません」
「じゃあどうやって?」
「私が紙に転写するのです。私はあくまでこのダンジョンの化身。管理ボードにある情報はすべて私にもあります。そして、私には固有能力として【転写】というスキルがあります。これを使用すれば問題なく紙に地図を転写することができます。直ちに行いますか?」
「できるならやってもらえる? 紙はこれを使って」
私は異空間魔法で再び大き目の巻紙を取り出して彼女に手渡した。
「かしこまりました。では早速始めさせていただきます」
そういうとエルロデアは紙に手を添え始めた。
でも特に何か呪文を唱えるでもなく、添えるだけで紙に次第と地図が浮き上がっていった。
「これでどうでしょうか?」
「おお、すごいな! 十分すぎる代物だ」
ギエルバは満足げに顔をほころばせると、地図を手に取り、自身の席の前に広げた。そして、腰に下げている工具袋からインクとペンを取り出して、下書きもせずにいきなり筆を走らせた。
一目地図を見て少しばかり考えてはいたけれど、その時間は多分1分もなかったと思う。
彼の進む筆をわたしは席を立って近くで覗き見てみると、その迷いなき筆から描かれている線たちは、この何もない土地に未来の街を容易に想像させる凄さがあった。
もっと簡素な、どこが商業区で、どこが住居区なのかとかを明記するだけかと思っていたけれど、これは立派な図面だ!
「やっぱりこういったことはギエルバの右に出る奴はいないな。こんなすごいもんをこの一瞬で考えて書いちまうんだからよ」
「本当にすごいですね。ずっと見ていられます」
ギエルバの腕の凄さは本物だった。
道具袋から様々な見慣れない道具を取り出しながら徐々に構図をくみ上げていく中で、距離などもしっかりと明記していく。私には何をどうやって図っているのかなんて全然わからないけれど、すごいことをやっているんだなと、無知な私は思った。
そして、物の5分程度で街の構図を完成させたギエルバは、それをルドルフに手渡した。
「いつも通りにやってくれ。任せたぜ」
「おうよ。仕事は完璧にこなしてなんぼですから」
「じゃあ、すみませんがよろしくお願いいたしますね」
「お任せてください。マリ様は安心して資材調達に行ってきてください。俺たちは早速仕事に取り掛かりたいと思います」
地図を片手に立ち上がるルドルフに私はシエルとオーリエの二人をつけて、街の外まで案内させた。
そして、残った私たちも席を立ち設置した転移門にてダンジョンへ資材調達に行くことにした。
私としての準備は特にはいらなし、手ぶらでも大丈夫か。まあ、異空間魔法でいつでもほしいものを取り出せるから問題はないけれど。
配下たちに指示をして、ある程度の武装を整えてもらい、
特に隊列はいらないか。
彼女たちならどんなところでもすぐに対処してくれるだろう。
袋小路の廊下に向かい設置された転移門の前までたどり着く。
いよいよダンジョンへ潜るときが来たか。
私のダンジョンだけれど、その実、歩き回ったのは数階層だけだった。あの何もない階層はいったい何階層目だったんだろうか?
ある意味新鮮な、それこそ、異世界への冒険を前にしている気持になって、とても高揚感を抱く。
きっと、こんな気持ちでいるのはこの中で私だけだろうな。
「大丈夫ですか?」
ハルメナが心配そうに私の顔を覗く。
「大丈夫よ。少し気持ちが高ぶっているだけ。楽しみで仕方がないわ」
「そうでしたか。それはよかったです。私はマリ様の御傍で御身をお守りいたします
。マリ様には傷一つつけさせないようにいたします。マリ様の宝石よりも美しい肌に傷など、私の命では償えないほどです」
「ハルメナは大げさなのよ。でもまあ、私をまもって」
「はい!」
恍惚とした表情に埋もれるハルメナを視界の端に捉えながら私は眼前の転移門をくぐった。
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