第2話 二人からの報告と世間話
「お目覚めですか?」
目を開けると、そこには大きな胸の天蓋が広がっていた。
体を起こして自身を見ると、いつの間にか服が着せられていた。
「ごめんね。また私、気絶しちゃったみたい。あ、服ありがとう」
「いえ、こちらこそマリ様に対して無礼が過ぎました。誠に申し訳ございません」
寝台から離れ、片膝をつく美女に私はあわてて諭す。
「そんなに気にしなくていいからっ。私も、もう少し耐性をつけたほうがいいのかもしれないかな。貴方たちにはすごく頑張ってもらってるから、私にできることはなるべくしてあげたいし。……あ、あんなので良ければ全然――いや、やっぱりあれはもう少し考えるべきかもね。少し私には刺激が強すぎるから」
彼女たちの主として、あんな醜態を晒してしまうなんて。本当に情けない。もっと堂々たる態度で彼女たちに接することができればいいんだけれど、なかなかどうして難しい。
生前の私は、今でさえ彼女たちからは熱烈な思いを戴いているけれど、OL時代は全くそんな気配はなかったし、学生時代も、浅いれないしかしてこなかったせいで、私はいろいろと経験する前に死んでしまったから、どうしても反応に困ってしまうし、ちょっと怖いと思ってしまう。
しかも、相手が異性じゃなく同性という現状では少しばかり……いや、全然未知の領域だから、なにをどうしたらいいのかてんでわからない。
大人なのに、まだその階段を昇れていない。
正直、こんな美女たちに求められることに不快感や嫌悪感などは一切ないし、寧ろうれしいし、身に余る待遇だと思う。
でも、やっぱりまだ私には早い段階だった。
如何にも大人なん色気を醸し出すカレイドの、あの慣れた手つきは、体に電流を流された感覚に陥って、恍惚としたものを感じてしまっていた。
あのまま行ってしまえば、私は大人への階段を上ったのだろうか……。
膝を折ったまま顔を上げる美しいカレイドに目を向けると、本当に申し訳なさそうな表情浮かべていた。
「本当に気にしなくていいからね」
「ですが……」
「ああいったスキンシップは、今後、よく話し合ってからするようにしてくれればいいから。別に不快だったわけじゃないし、私も、カレイドと触れ合えて嬉しかったわ」
「マリ様……好き」
ぼそりと聞こえた言葉に、彼女の想いが凝縮されているように感じた。
さっき言ったことは別に建前じゃない。
今回や、前回の様なスキンシップは、本当に私は嬉しい。べ、別にそういうものを求めているわけじゃないわ。そんな痴女ではないはず。
ただ、私は彼女たちを創り、いろいろなことをさせて来たけれど、私自身、まだ深く彼女たちとかかわれていない。私の代わりに色々と働いてくれているのに、未だ、私の中では少しの、ほんの少しだけど、一線ひかれている気がする。
だから、ああしたスキンシップをすることで、私自身、彼女たちとの距離知事めることができる気がするし、実際に縮まったと思う。直接近くで話さないと、集団の一人という認識になってしまいがちだから、二人きりや、少人数での会話が必要だと思う。
でも、だからと云ってあそこまで急激に近づくのもあれかもしれないけれど……。
「さて、そろそろ戻らないとね。結構待たせてしまってるんじゃない?」
「大丈夫です。それほど時間は経っておりません」
「そうなの? てか、私、汗の臭いとれたかな? 濡れタオルで拭いただけであんまり臭いは取れないかもしれないし」
そのことに関して、カレイドが自信満々に告げる。
「そちらも問題ありません。マリ様の汗は私が念入りに拭き取らせていただきましたし、臭いも完全に消えております。そもそも臭いなどありませんでしたし、マリ様の匂いはいいものです。この世界に嫌うものなど存在しないでしょう」
いや、私の身体、フレグランス体質じゃないし。
「ならいいんだけど」
私は寝台から体を起こすと、カレイドを連れ二人を待たせている会議室へと戻ることにした。
会議室までの廊下を歩く中で、隣を歩くカレイドの豊満な胸がやたら視界に入る。
やはり、牛人というのは度の種族よりもそこの発育は比類なきものなのか。
私の配下はみな羨望するスタイルの持ち主だけれど、胸に限れば、カレイドの右に立つ者はいない。しかも、大きいからといって形が悪いわけでもない。――まあ、彼女の裸を見たわけじゃないので確かなことはまだ言えないけれど。
そんな私の視線を感じ取ったのか、カレイドがにやりと口元を緩ませる。
「触りますか?」
「だ、大丈夫。気にしないで」
こんな美人から胸を触りますか? といわれた日には、世界中の男は奮起するだろう。私も男だったら間違いない。女である今でさえ、少しばかり感じるところはある。
会議室に戻ると、席についていた二人が姿勢よく席を立った。
「そのままでいいよ」
この規律正しい姿勢はまだ慣れない。
カレイドもアカギリの隣に座り、話が進展した。
「ごめん、待たせたわ。さっそくだけど、報告をお願いできる?」
「かしこまりました」
アカギリが答える。
「私たちがウィルティナで冒険者ギルドに登録して、初任務のさなかに起きたことについて話したいと思います」
いつになく謹厳な面持ちのアカギリに違和感をぬぐいえない。どこか緊張しているような、そんな感じだった。
「初任務は滞りなく進み、ギルドへ帰還しようとしたところで、聖王騎士団と名乗る三人の男が私たちの前に現れました」
聖王騎士団……確か、ディアータからも同じ名前を聞いた気がする。
「聖王騎士団というのは、オーレリア山脈を越えた先にある光側の最高勢力を誇るといわれる、ルーンベルエスト聖王国に所属する騎士団のことだそうです。騎士団の実力は魔王に匹敵するとされており、非常に危険な存在かと思われます。今回、私たちが襲われた理由もまた、魔王の配下という理由だったようです」
「実際、私が三人と戦ってみた感想なのですが、騎士団の中にも序列というものがあるそうで、下のほうは無視できる弱さだと思います。上位でもそれほど気にされるほどの実力は有していないかと思われます。ただ、騎士団ですので、そんな実力の差を払拭するほどに、集団戦においては厄介な相手になるかもしれません。実際、過去に魔王が敗れていると聞いております」
ディアータから聞いた情報通りだった。
「その三人はカレイドが一人で相手したの?」
「はい」
「騎士団の連中はどんな相手だった? 種族はわかる? 見た目とかも」
「服装は騎士団のエンブレムが記された白いローブ姿でした。種族は確か……
「
「どうなんでしょう……。途中で姿が変化して
「形態変化ってこと!?」
【形態変化】は特別なスキルで、その者の形態を全く別の者へ変化させるといったもの。
私の中の情報だと、
つまり、その能力が備わっていたというその
となると。それをさも当然のように毅然として話す彼女らが恐ろしいわ。
「いえ、そういうわけではないと思います」
カレイドが呈した。
「どういうこと?」
「どうも、
「
「そんなスキルがあるの? ……獣人っていうと、エネマやロローナもそうだよね? あ、ディアータもそうかな。でも彼女らの保有スキルにはなかった気がするから、やっぱりレアなスキルってこと?」
「可能性はあります。獅子王の男も、自身で云っていましたし、スキル自体は特別なものだと思います」
「スキルは特別でも、大して私らの脅威になることはないと思います。あの程度の強化能力なら私らにもできますので」
確かに私の配下は戦闘要員で創った者は全員、自身の身体強化のスキルを持っている。むしろ、彼女らのほうがよっぽど強力なスキルを持っているだろう。
まあ、私はその【獣解放】を直接見たわけじゃないからそのスキルのすごさに関しては正直わからないけれど、たぶん、うちの子たちのほうがスキルは上だ。
彼女たちがい云うのだから、そのことに関しては気にする必要はないけど、聖王騎士団自体は何か対策しないといけなわね。
「その聖王騎士団についてほかに何か情報があったりする?」
「騎士団の組織図をギルドのほうに訊いてきました。聖王騎士団は全部で5つの部隊に分かれているそうで、それぞれ団を率いる騎士団長がおり、その騎士団長を束ねる統括という実力上最高峰の存在がいるそうです」
「それは怖いね。でも、こっちから何もしなければ騎士団も動きはしないんじゃない? ――でも、そもそもなんだけど、どうして二人は騎士団に狙われたの?」
根本的な話を聞いていなかった。
「ギルドには掲示板という情報を公開するものがあるのですが、そこに
「なら、その掲示板をみなければ聖王騎士団は私たちの存在を認知しないわけ?」
「ですが、それは時間の問題かと思われます。どうやらギルドに掲示される情報掲示板は各地のギルドへ情報が渡り同時に更新されるらしいので、騎士団がどこでその情報を見るかは定かではありません。今もどこかで見ているかもしれません。それに、
た、確かに……。
「それも考慮して、少し今後のダンジョン防衛を考える必要があるわね。勇者よりも聖王騎士団との抗争が先に起こりそうだね」
なんでこうも私の平穏は危機に陥るの?
私の平穏なダンジョン引きこもり生活はいつ訪れるのかな……。
「それじゃあ、騎士団の話はまた後にして――」
私は二人の顔を交互に見た。
「それで、ギルドに登録して初の任務の話を聞いてもいい? 私ってほら、このダンジョンから実質出られないわけでしょ? 外の話をとても聞きたいのよ。どんなふうに冒険者になったのかとか、ギルドのこととか、たくさん聞きたいわ」
私がこのダンジョンに転移してから、最初はいろいろ発見の連続で楽しいこともあったけれど、最初の計画の街づくりがまだ全然進んでいないから、人員が補充するまですごく退屈していたけど、配下から聞く外界の話はとても新鮮で愉しい。外に出ることが許されない私には目にできないことを聞くだけで、想像が膨らむ。
ここが異世界というのは十分理解しているけれど、もっと世界をみたい気持ちはあるのだ。
だから、今現段階では配下の話が唯一の楽しみなのだ。
そして、私は二人からいろいろな話を聞いた。
冒険者になるにはどうするのか。
ギルドの組織構成。
他にも街並みや他のダンジョンやのことや魔物のこと。本当にいろいろと――。
「そうだ、二人が来る前にね、ドルンド王国へ行ったロローナから連絡があって」
「ドルンドといいますと、確か例のドラゴンに襲われたっていう国ですよね?」
「何かあったのですか?」
「ドルンド王国から救ってくれたお礼にこちらへ人員を援助してくれるっていう話でね、その人たちと一緒に今ここに向かってるって報告を受けたの。援助人員は5人で、みんな腕の立つ職人というらしいの。これで、ようやく街づくりが開始できるわ」
「ようやくですね。お城も周りにはあんな広大な土地があるというのに、未だに小屋一つしかないですものね」
そういえば、あったな小屋。
確か、この階層を作ったときに初めに造ったものだった気がする。
あれ、どうしようっかな。あのまま放置していてもいいけれど、この城を作ってから、あの小屋に一切いかなくなってしまったし。
「あの小屋も街づくりの最中邪魔になってしまうなら撤去しちゃおうか」
広さは十分の立派な小屋だけど、別に撤去も設置も管理ボードで簡単にできてしまうからさほど問題はないけれど。
「それでしたら、マリ様」
アカギリが一つ提案をくれた。
「今ここへ来られるという職人の住処に使われたらどうでしょうか? 5人なら十分泊まれるでしょう。わざわざ壊す手間もありませんし、それに、よそ者をこの城に入れたくはありません」
そっちが本音か。
でも、確かにその方がいいかもしれない。もし、狭ければ新しく小屋を出せばいい話だし。
このダンジョン街が概ね進むまでは職人たちには滞在してもらうわけだし、ちゃんとした寝床なんか、不自由はできうる限りさせないようにしたい。私のわがままに付き合ってくれるんだ。それ相応の対応をしなければ後の好感度に響いてくるかもしれない。
少しでもいいほうへ転ばせなければいけないのだ。
とはいえ、さすがにずっと小屋生活というのはいかがなものか。
城と小屋の距離は少しある。私に用があるときは少しばかり不便になるかもしれない。まあでも、私もずっと城にこもるつもりはない。私にできることがあればいろいろと協力していくつもりだ。
だって、超絶暇なのだから!
それから、ロローナがダンジョンへ戻ってくるまでそう時間はかからなかったけど、それまでに私はレファエナ以外の守護者にメッセージを飛ばしておいた。
そして愈々、私のダンジョン街計画が動き出す。
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