第8話 配下の安全面

 


「確かさっき、転移装置がどうとか言ってたけれど……」


「はい。階層と階層を一瞬で移動するための転移装置が存在します。管理ボードにてそれは設定可能です」


「なら、それを使えば、戦いで瀕死になったものはそれを使って避難させれば、死なずに済みますね」


「それはどうでしょう。この転移装置は非常に便利でもありますが、不便でもあります」


「どういうことですか?」


「例えば、この転移装置で配下がここへ転移したとします。そしたら、侵入者はどうするでしょう? 瀕死の敵がその転移装置で逃げたのです。とどめを刺すために追ってくるでしょう。そしたら、敵をダンジョンの心臓へ導くことになります。ですので、階層間を一気に移動するような転移装置は安易に設置することはしない方がいいでしょう。ですが、転移装置も様々な設定をすることができますので、この階層でない他の階層、最大でも10階層分の簡易的移動としての設定なら十分に設置してもいいと思います」


「でも、それじゃあ、彼女たちの安全面がいまいちなので、もっと別の方法があればいいんですけれど」


「転移装置ではなく、ダンジョンで生み出した配下に装備させるアイテムでなら装備した者だけを設定した条件下や装備者の意志で階層内を自在に転移することができます」


 そんなものがあるなら、転移装置の前にその話をしてほしかった。


「転移の指輪というアイテムがあります。これはダンジョン内でしか効果を発揮しないため、外に出てしまえばただの装飾品でしかありません。指輪は管理ボードの【キャラクター】の項目内に設定した配下をタッチすると、装備品の設定項目が現れます。そこで装備できるアイテムを選択して装備することができます」


 ボードを操作してみると、確かに装備品を設定できた。

 装備可能アイテムの中には【転移の指輪】があり、それを配下へ装備することができるようだった。なので、私は配下全員にこの指輪を装備させることにした。

 転移の指輪をタップして装備させようとしたとき、新たな画面が出てきた。


 ――転移条件の設定:


 設定欄には何も書かれておらず、その項目はまるでキャラクターの詳細設定画面と類似していた。

 空欄の所に文字を書き込むことで、その条件が指輪に組み込まれ効果を発動するようだった。

 私は空欄ヵ所に、《装備者が瀕死時、強制的に101階層安息所へ転移》と記載して配下全員に装備させた。

 101階層の安息所とはこの城にある治療用の救護室の事で、まだその細かい設定はしていないので、後ですることにする。

 指輪を配下の装備欄に装備させると、現実の配下の指に指輪が嵌められた。

 赤い宝石が装飾された美しい指輪が彼女らの指に着けられると、彼女らはそれらを眺めて嬉しそうな顔を見せる。

 安息所の設定は直ぐに行った方がいいかもしれない。せっかく設定しても、その転移先で治療ができなければ何の意味もない。だから、傷ついた彼女らを治療できる者も必要なので、その治療役を先に設定しよう。

 キャラクターで新しい配下を設定することにした。


 治療員:メアリー・スーシー(樹妖精ドライアド


 魔法職をメインにする配下で、治癒魔法に関しては全てを網羅していると云う設定だ。戦闘に関しては全く不向きなため、万が一戦闘になった場合は戦闘を得意とする者の所へ転移して後方支援に徹してもらう。

 取り敢えず、このくらいで設定は良いかな。


「他に今決めておかないといけない事ってありますか?」


「そうですね。ダンジョン内の魔物の設定はどうされますか? 今のままでよければ特にないですが、より強力な魔物を配置したいとなれば設定ができますので、そちらを設定されてもいいと思います」


 魔物の設定か……今はいいや。若干面倒だし。

 もう5人も配下を設定したので、大分疲れてしまった。


「それは後にします。強力な魔物を配置しなくても、彼女たちがいれば大概は大丈夫だと思うし……そもそもなんですけど、彼女たちの力ってこの世界だとどのくらいなのか全然わからないので、何か指標みたいなのがあれば助かります。私が設定できたのはあくまでその見た目や攻撃手段、彼女らの物語だけだったので、能力値? っていうんですか? そう云ったのは一切触っていないので、実際問題強さは不明ですし、この世界の事も私は知らないので、敵対する人たちと対等に戦えるようになってもらわないといけないので確認ができればうれしいんですけど」


 すごく他力本願な言い方だけれど、実際このダンジョンが攻略されてしまっては私や配下の者たちも皆消滅してしまうのだから、撃退できるほどの力は欲しい。けれど、だからって、全て配下にやらせるわけにもいかないので、私も私で戦い方を学んで勇者の一人や二人を倒せるくらいにはなるつもり。


「それでしたら、提案なのですが――」


 そう手をあげたのはコーネリアだった。

 管理者となった私だからできることで、簡単に力を見る方法があった。

 ゲームの様に配下のステータスを表示するなんて方法は存在しないものの、物理的に確認する方法をコーネリアは提示してくれた。

 私は管理ボードで102階層を増設し、そこに大規模な闘技場を設けた。

 闘技場と云っても、円形闘技場コロッセウムのような円形の傍聴席に囲われたような造りとはかけ離れたもので、洞窟状の壁と天蓋をクリスタル製にした大規模な空間を形成した。そしてそこに、魔物を作成。魔物の作成にはその魔物の強さを設定することができたので、最上級の魔物を創造してみた。

 魔物の設定に表示された強さの指標はランク制になっていて、ランクDからSまであり、最弱のDから順に上がっていき、最高ランクはSと云うものらしい。エルロデア曰く、勇者の仲間の強さはランクS相当らしいので、それを倒せないと、勇者に攻められたら負けてしまうと云う事だ。なので、取り敢えずランクSでどれだけ通用するのか試してみることにした。


 ついでに言っておくと、勇者はランクSの魔物を片手でひねるほどらしい。


 魔物の配置が完了し、私たちは力を確認するため、新設した闘技場へ向かった。

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