第6話 神機と闇の君主

 明確な望みがあるのは私としても非常に助かる。

 守護者が明確にどういった配下が欲しいかを望んでくれれば、それに沿って創造するだけだから非常に簡単で助かる。


「それは助かるわ。じゃあ、教えてもらっていい?」


「ハイ。私が望ムノハ、私の管理下ニアル戦闘特化型自動人形デス」


「戦闘特化型自動人形? それはどういうものなの?」


「詳細ハ資料ヲ作ッテアリマスノで、似タ感ジに創っテ頂ケレば」


 そういってオフェスは椅子から立ち上がると私のところまで来て、配下創造の指示書を出してきた。

 ここで私は彼女の新たな一面を知ることになる。

 もらった指示書には事細かくどういった形で、どのような装備をしているかなどが書かれており、何に特化しているのかも子細に記入されている。そんな中で、希望する配下の想像図が描かれていたのだけれど、それがなかなかに上手く、一流画家なのではないかと思わせる代物だった。


「これを、オフェスが描いたの?」


「……? ハイ」


「すごいわね。とても上手で綺麗な絵だわ」


「……アリガトウ、ごザイマす」


「こんなに細かく描いてくれているのだから、私もそれに見合う働きをしなくちゃね」


 彼女が提出した資料によると、創造してほしい配下は五体。

 それらすべてが自動傀儡人形プッペンハーベンという存在で、自動人形オートマトンと違い、意思はなく、傀儡者の命令によって行動を決定していく傀儡人形である。その為、自動傀儡人形プッペンハーベンは種族で存在しておらず、自動人形が生み出される前の時代の遺物の一種だそうだった。

 管理ボードの種族選択の欄には載っていない為、通常の配下とは創造の仕方が違うみたいだ。


「今回のような場合はキャラクターによる創造ではなく、特殊設備のところで生み出すしかありません」


 隣に凛として構えるエルロデアが空かさず助言をくれる。


 管理ボードにはいくつかの操作項目が存在しており、いつも配下を創造する際は操作項目の【キャラクター】という欄を使用していたのだけれど、どうやら今回はそれに該当しないものになるらしく、魔道具や転移盤といった特殊な道具を生み出す際に使用する、【特殊設備】という操作項目で今回は行っていくらしい。


「ありがとう」


 一言お礼を言っておき、私は早速、彼女に提出してもらった資料を基に自動傀儡人形プッペンハーベンなるものを創造していく。


 今回、彼女の求める配下を創造するにあたり、少しだけ時間が掛かってしまった。

 一度、彼女から貰った資料に目を通してから詳細に設定を行っていくのでそれなりに時間が掛かってしまったのだ。とはいえ、極力迅速に作業は終わらせたわ。

 これぞ、できる上司だ!

 なんて言ってる場合じゃないわね。

 自動人形オートマトンである彼女が求めたのは、自身で操ることのできる自動傀儡人形プッペンハーベン5体だ。

 それぞに特質する性能を付与してあるので、特化した力の差が明白に分かれている。

 皆と同じように彼女の配下も彼女の後ろに参列させようかと思ったのだけれど、一体あたりの大きさが大きいため、ここにすべて出すわけにはいかなかった。


「ここに全部を出すことはできないから、貴方の守護する階層へ召喚しておくわね」


「カシコマりマシた。ありガトウうゴザイマス」


「オフェスはいったいどんな奴を望んだんだ?」


 無表情の中に少しばかりの愉悦を混ぜながら、オフェスは返す。


「私ガ望ンダノは、最強ノ五体。私ノ様な完全体デハナイケド、ダンジョン防衛ニハ適シタ戦闘能力を有しタ、兵器」


「うおっ! めっちゃ見たい!」


「フンッ。ナラ後で見に来るトイイよ」


「そうする!」


 確かにオフェスが云う様に、彼らは最強の五体であるといえるかもしれない。

 大きな魔石核を有した傀儡人形兵士。一律に堅牢な鎧に身を包み、それぞれが異なる様相をしていて、扱う武器も全てことなる。一体一体が階層守護者にも匹敵するほどの戦闘能力を有しているため、すべての自動傀儡人形プッペンハーベンを操ったオフェスは文字通り最強になるのかもしれない。とはいえ、自動傀儡人形プッペンハーベンは傀儡師であるオフェスの魔力によって駆動する。故に、同時に数体の自動傀儡人形プッペンハーベンを動かすことは不可能という欠点をもつ。

 今回創造した五体の総称は【五核神クインケノス】。

 ・護神クァイエ

 ・疾神テノウシス

 ・犀神ヘゲル

 ・魔神マハット

 ・核神アバロフ

 一体の大きさは高身長であるアルトリアスの二倍以上もある。故に、この場に召喚すれば場所を占領してしまう上に、正直入らない。

 そんな兵士たちをまだ見ても居ないのに、オフェスは非常に上機嫌だ。

 まあ、今回オフェスの要望により想像したもののため、少しばかり目的から逸れてしまった感は否めないが良しとする。

 階層管理より防衛強化となってしまったけど、階層管理も防衛強化の一環といえばそうなのでいいでしょう。


「じゃあ、次はモルトレね」


「ついに僕かっ!」


「モルトレは何か望みはある?」


「うーん。僕はさっきのオフェスの配下と同等か、それ以上の強い悪魔をお願いします! ……でも、正直手持ちの悪魔の数も少なくないので、改めて頂くのも申し訳ない気がするんですけど大丈夫ですか?」


「さっきも言ったけれど、そんなこと気にしなくていいわ。望みがあればそれをかなえるのが、上に立つ私の役目だからね」


「マリ様……」


「それで、どんな感じの子がいいの?」


 モルトレはハタと我に返り、自身の想像する最強の存在を語った。

 悪魔使いハントハーベンなだけあり、彼女が保有する悪魔は可愛らしいものもあるけれど、一律に不気味さを秘めている。純粋な異質さを持つ者もいるように、やはり悪魔は悪魔なのだなと思う。そして、新たに彼女が求める悪魔もまた、出会った者に畏怖を抱かせる存在だった。

 漆黒に身を包む人型の悪魔。

 その体躯は3mほどあり、漆黒の体に煌々と光る深紅の幾何学な模様が腕先と膝下に描かれ、指は細長くゆらゆらと紐のように存在している。そんな悪魔には頭部はあれどそこに顔は存在していない。その様相が他のどの悪魔と比べても異質さが際立っている。

 悪魔は基本会話することができないけど、この悪魔は普通に会話をすることができる。しかし、その知能はそれほど高くない。単純なことを理解し話す程度。それもまた不気味と感じてしまう所だろう。

 非常に好戦的ではある者の、私や私の配下、そしてダンジョンの住人には一切手を出さないように設定はしてあるので、こんな見た目だけれど、私たちには無害である。


「おおおおっ! めっちゃかっこいい!」


 歓喜のこえを漏らすモルトレの眼前で、悪魔は小首を傾げていた。


「名前はなんていうんですか?」


 嬉々としてそう私に訊くモルトレだったけど、それに答えたのは私ではなかった。


「モナーク」


 低く地響きでも起こしそうな声で悪魔が答えた。

 前かがみになり、直角に腰を曲げ背の低いモルトレを覗き込む。


「モナークか……。いい名前だ! 見た目に相応しい。気に入ったぞ! モナーク、今日からよろしくな!」


 ペシペシと、悪魔の足を叩くモルトレ。

 それに対して静かな首肯を返すモナーク。

 巨体と相対する彼女は何時もよりも小さく見えてしまう。大人と子供ではなく、大人と赤子のように感じてしまうほどに。

 そんな彼女だが、不気味さが群を抜いているモナークを前にしてもまるで怯むことのないその精神は、悪魔使い《ハントハーベン》だからなのか、それとも彼女自身の話なのか。正直よくわからない。とはいえ、守護者にとってこの程度の者は恐れるに値しないのだろう。みな落ち着いている。

 私が創造しておいてなんだけれど、一番ビビっているかもしれないのは黙っていよう。


「モナークはね、悪魔だけど、モルトレの魔力を消費することはないわ。だけどその代わり、常に顕現しているわ。他の悪魔と違い召喚を介さずにこちら側で生活を送ることになるけれど、大丈夫?」


「なら、ずっと傍に居るってことですか!?」


「まあ、そうなるわね」


「全然問題ないですよ! ありがとうございます!」


モルトレはニタニタと笑いながらモナークを見上げていた。


 そんな感じでようやく半分まで事を進めることができた。


 残りは五人。

 オーリエ、ゼレスティア、サロメリア、ハルメナ、アルトリアス。

 ここで一つ小休憩でも挟もうかしら。


 連続して生命の創造をしたため、少しばかり疲労感が出てき始めた。

 とはいっても、倒れるほどではない。

 しかし、何かしらの休憩をいれたいところ……。


 私はカテラにメッセージを送り、会議室にお茶を運んでもらう様に伝えた。

 皆も長時間椅子に座って、他の階層守護者の配下が生まれるのを見ているだけだから、すこし退屈しているかもしれない。

 まあ、守護者にはそういったことを考えそうな子はいなさそうだけれど、お茶の休憩くらいはさせてあげないとね。

 休憩なしで5、6時間通しの会議をさせてしまってはブラックだわ。

 それほど時間が掛かることなくカテラ率いるメイド数名が会議室に入り、全員分のお茶と茶菓子を用意していった。


「すこし休憩しましょう」


 そういって、私はお茶を一口啜り、茶菓子を一つ手にして食べた。


 長時間集中作業が続いた後のあったかいお茶と甘味は心身に沁みる。

 そしてまた一つ、次へ次へと手を伸ばしていき、やめられない止まらない状態が発生してしまった。

 そして少し落ち着いたところで、座りっぱなしの体を解すため、少し立ち上がり背伸びをすることにした。

 椅子から立ち上がり、背中を伸ばす。するとポキポキと背骨が鳴るのが聞え、気持ちよさを感じながら、少し閉じていた瞼を開こうとした。

 しかし、私の視界は少し空いたかと思うと再びゆっくりと閉じていき、体が急激に重くなりそのまま後方へと倒れていく感覚に襲われ、意識が遠のくのを感じる。


 この感覚――。

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