第9話 街の構想

 私は席に着き、ギエルバの話を聞いた。


「街の建設も順調に進んでいます。それで、まだ計画をしていなかった中心街の計画をそろそろ始めようと思いまして、今回話を持ち掛けました」


 私はこのダンジョン街の構想に関して、殆どをこの岩窟人一の建築家、ギエルバに任せている。だから、細かい内容を私は全然把握できていない。


「中心街?」


「一応、街の構想として以前見せた設計図なんですが――」


 そういってギエルバはこの街の大まかな設計図を私の前いに広げた。


「俺たちが今住んでいる場所がここで、ここはこの街の正門に当たるようなところです。そしてマリ様の城がこの中央です。今建設を行っているのが、この正門からまっすぐマリ様の城へと延びるメイン通りです。ここで多くの商店が建ち並ぶ予定です。そのメイン通りを進んでいき、城を囲うように大きな広場がみえます。この広場が俺がさっき言った中心街になります」


「えっと、このメイン通りの店と、その中心街とはどう違うの?」


「基本的には中心街のほうが店自体が大きく、大商店なんかを構える場所になります。俺らの国、ドルンド王国はそういった作りができない場所なのであれですが、基本的にはその街の中心にそういったメインの店たちが並ぶようになっています」


「そういうものなのね」


「とはいっても、マリ様は外の世界に出られない身の上、何をどうするか聞かれてもわからないと思いますので、一例をあげますと、ギルドや教会、酒場など、多く集まるような場所を基本的に配置しています」


「なるほどね。でも、やっぱり私だけじゃ、いったい何が必要なのか全然わからないから、すこし話し合いましょうか?」


 私の他力本願な性格が発揮される。


 一同が席に着き、席のないドンラとギエルバの席は、私が管理ボードで簡易的な椅子を創り、それに座らせた。


「話は聞いていてと思うから単刀直入に行くわ。街に必要なものって、具体的にはどういったものがあると思う?」


 そんな私の問いにいち早く答えたのはハルメナだった。


「魔王ヒーセントが言っていました、ギルドなどのを置くというのはどうでしょうか? 私は外界の常識はありませんので聞き及んだものからの推考ですが、ギルドには商業者ギルドと冒険者ギルドと言う者があるそうですので、その2つのギルドを、中心街に設けるというのはいかがでしょう?」


 流石は統括。

 期待以上の答えをくれる。


「そうね。ギルドは街をつくるうえで必要だとヒーセント様も言っていたし、それは必要ね」


 ギエルバは私と配下のやりとりを聞きながら、徐に出した小さな襤褸紙にそれらをメモしていった。

 でも流石に膝の上で、しかもあんな襤褸紙に書くのはなかなか不便そうだ。


「ギエルバさん、これをつかってください」


 私は管理ボードで、木の机を創り、アイテムポーチから外界で手に入れた紙を彼に渡した。


「あ、ありがとうございます」


「いえ。――それで、他にはないかしら?」


「酒場! さっきもそこの岩窟人が言っていたけど、酒場は欲しいんじゃないですか? 街の雰囲気も良くなると思います」


 それを言ったのがモルトレだったことに私は驚いた。

 彼女の見た目で酒場というワードが出てくるなんて。


「確かに酒場というのは欲しいかもしれませんね。この街ならではのお酒なんかができれば、街の特産物として外界への輸出ができるのではないでしょうか?」


 モルトレの意見に補足するように、メフィニアが発言した。


「酒場ね。確かに特産物を生み出すというのも夢があるわ。みんなの触れ合いの場としてはやっぱり酒場は欠かせないのかな」


「中心街となるとあとは何が必要になるだろう……」


「私たちにはさして必要性のないものですが、ギルドなどを創るにあたって、財を扱う場所が必要になるのではないでしょうか?」


「それって銀行かしら? たしかにそれはあったほうがいいわね。この街では税金なんてものを取るつもりはないし、街に住む人たちで自由に商いをしてもらえればそれでいいけれど、住人たちの間では外界との交易とか、買い物とかでお金が必要になってくるはずだから、そのための個人の金庫というのもいずれは必要になってくるかもしれない。それに、ギルド設立にあたっては、ギルド協会なんてものに申請をしなければいけないそうで、それに準じて金銭が動くと聞いたわ。そうなればやっぱり銀行は必要になってくるわね」


「冒険者ギルドに、商業者ギルド、酒場に銀行……あとは何でしょうか」


「武具屋とか薬屋とかはどう?」


 現状出ている案以外で何があるか悩んでいるゼレスティアに、シエルが提案する。


「でもそれは別に中心街で無くても問題はないのでは? もっと、中心街には必須なものが……」


「マリ様1つよろしいですか?」


 アルトリアスが改まって聞いてくる。


「なに?」


「これはこまかな話になってくるのですが、街が形になり、そこに住人を住まわせ自由に生活や商いをさせるにあたって、確りとした規律、秩序を維持する必要があると思います」


 確かに。

 秩序の維持なんて全く考えていなかったわ。

 なんとなく、みんな平和に暮らしていけるんじゃないかって思っていたけど、やっぱり外界から様々な人が来るようになればその分、治安だって悪くなるのは必然。


「そういった街の秩序を管理する自警団が必要になってくると思います。ですので、そのような自警団の詰所を街の中心街に置くのも案かとおもいます」


「わかったわ。となると、その自警団は私の配下で補ったほうがいいわね」


 招きいれた者では信用にかける。その分、私の力で創った配下なら裏切りなんかは絶対にしないから安心。でも、また新たに自警団員を創造しなくてはいけないとなると、気が重いわ。


「私も1つ。いいでしょうか?」


 レファエナが私をみる。


「この街で店を出すにあたって、その素材となるものを調達するのにはどのようにしていくおつもりでしょうか?」


「確かに、今回は守護者たちに色々手伝ってもらったけれど、これからもずっと調達の手伝いをさせるわけにはいかないわね。となると、やっぱり別の調達係を創らなければけないかしら? 既に、ロローナやレイ、キーナが物資調達係として働いているけれど、それはあくまで外界から物資を調達するためだけだから、役割が違うのよね……」


 でも、新しく行商係も発足して既にダンジョンで採れたものを他国へ売りにいってるけれど、あくまで彼女たちも商品の売買によってその知名度を広めるという目的で宇おいているから、外界の物資調達は彼女たちに任せるしかない。

となればやっぱり新しく配下を創るしかないのかな……。


「いえ、その必要はないかと思います。これはあくまで今後の可能性の話にはなりますが、街の住人や外界から来た者に調達をさせるというのはどうでしょうか?」


「それはいいんだけど、資材調達する場所はダンジョンの中よ? 普通の人なら魔物と出くわしたら死んでしまうんじゃない?」


「はい。一般人なら手も足も出ないでしょう。しかし、腕の立つ冒険者なら話は違うと思います」


「……まだ話が見えないわ」


「つまりは、ギルドを設立して冒険者たちに調達の依頼をするのです。そうすることでマリ様のお手を煩わせることなく素材の調達をすることができるでしょう。ただこれにはなかなか大きな問題があります」


「素材といっても欲しいものは様々な階層に行かないと採れないと思うんだけど……」


「その通りです。つまるところ、その階層転移が問題になります」


「それなら、私が管理ボードで転移門を創れば問題はないんじゃない?」


「いえ、転移門自体は問題ではありません。むしろ、転移門に関してはそれを踏まえたうえで考えています。問題というのは、外界からの冒険者が容易に守護者を介さずに自由に下層に行けてしまうという危険性についてです」


 そ、それは確かにやばいわ!


「だが、それに関してはさほど気にしなくていいのではないか?」


 レファエナの意見にアルトリアスが口を挟む。


「たとえ転移門を使い下層に移動できたとして、仮にその者がダンジョン攻略を目論んでいてそのままさらにダンジョンを潜っていっても最後にぶつかるのは吾ら守護者の部屋だ。そこで迎え撃てばいい話だ。何も問題はない。それに、守護者は下層ほど力を増す。そう簡単に突破できるほど脆弱ではない」


「とはいえ、最深部に近くなるのは確かです。私も守護者がいるので安心だと思いますが、危険がある事実は変わりません」


「確かにそうなると少しの不安は残るわね」


「ご心配なく。そんな心配が杞憂だったと、吾ら守護者が確りと務めを果たします」


「わかったわ。それで、話は終わりじゃないのよね、レファエナ?」


「はい。そういった諸々を踏まえて、階層へ転移するための施設が必要かと思います。もちろん中心街に」


「転移に際して誰でも容易にダンジョンに入れてしまっては問題ですよね? 資材、素材の調達任務の際、その者がダンジョンに潜るのに適しているか否かを判断する係も必要になるのではないのでしょうか? 転移門の門番みたいな」


 オーリエが頭の蛇たちをこちらに向けながらいう。


「そうね。階層転移所とでもいえばいいかしら? それは創る必要がありそうね。私の街ならではのもの。……門番ねぇ。またその時が来たら創っておくわ」


「デモ、意見」


 すっと手を挙げたのはオフェスだった。


「ソンナ、強イ冒険者、沢山イナイとオモウ」


「なら造ってしまえばいいのです」


 サロメリアの返しに、私は本末転倒だと言葉を出してしまいそうになったけど、それには及ばなかった。


「弱いのであれば強くすればいいのです。この街で冒険者になった者は、この街で強く育成すればいいと思うのです」


「具体的には何かあるの?」


 ハルメナが問う。


「訓練場や、闘技場などを設け、自主的、もしくは強制的に育成していくのはいかがですか?」


「訓練所は欲しいね! マリ様! 訓練場を創って、僕ら守護者もそこで訓練させてくれませんか?」


「みんなを?」


 その必要はないでしょ?


「以前、マリ様が言ってたじゃないですか、僕たちより強い魔物を創ってくれるって。その訓練場で、魔物とかを任意で召喚できるようなものにして、それと戦う訓練をしたら、きっとみんな強くなると思いますよ!」


「私の意見とは少し違いますが、内容としては似たようなことになります。あくまで訓練場は一般人が使うような基本的な場所として使うのがメインで、モルトレの言うよな守護者たちや、腕の立つ冒険者が、その腕をさらに高めるための訓練場はまた別に用意したほうがいいかもしれません」


「そういったものも確かに必要になるわね。弱いままでは到底このダンジョンで素材集めなんてできないだろうし。……そういえば、さっき闘技場って話も出たけど、それはどういった目的?」


「闘技場は主に、この街に住む者たちが自らの力に満足しないようにするための、いわば再認識の場になります」


「というと?」


「闘技場では定期的に、このダンジョンの住人同士で模擬戦を開催し、ダンジョン内ランキングなどと言うものを創れば、自らの力が、現状どこまで通用しているのか理解できますし、低ければもっと上を目指そうと努力するでしょう。しかし、そのためにはなにかしらの褒美を用意する必要がありますが、それがなくとも、慢心せず力に磨きを加えるというのはこのダンジョンに住む者の義務でありますので、なくても差しさわり無いかと思います」


 なかなかにすごいことをサラッと言ったな。


「ランキングか……。そういうのはやっぱり冒険者とか、力を持つ者にとってはいい指標になるかもしれないわね」


「それ、僕たちも出れる?」


「私たち守護者が出ては住人のやる気が削がれてしまうのでダメです。あくまで住人だけで行うようにしなければいけません」


 彼女らがランキングに参加してしまえば序列10位は不動だろうし、参加するものは絶対に上れない壁に対してやる気なんて出ないもんね。

 でも、サロメリアが提案したランキング制というのは結構いい案な気がする。

 とはいえ、訓練所だったり、闘技場だったりと、まだまだ先の長い話になりそうなものばかり。

 後方で子細に筆を走らせるギエルバはなんだか嬉しそう。


「サロメリアの意見はとても参考になったわ。他にはないかしら?」


「図書館というのはどうでしょうか? 様々な本を閲覧できる場所があれば皆利用するのではないでしょうか? あ、でも本を集めるのが大変かもしれないですよね……だめかな」


「ダメじゃないわ。とてもいい意見だわ。ありがとうオーリエ」


 私の城には確かに書庫がない。本棚というものはあるけれど、そこには一冊の本すらなかった気がする。図書館というのはいいけれど、まずはこの世界の本を各地から集めるところから始まるわね。

 後で今外界に出ている子たちに連絡を入れておこう。


「他はないかしら?」


 一同は思案顔を見せる。


 もうないようだった。


「なら、とりあえず、中心街に必要なものは先ほど挙げたものになりますから、それで街の構想をお願いできるかしら? ほかに必要と感じるものがあれば自由に追加しても構わないわ」


「かしこまりました! いやー随分と設計が楽しくなってきましたよ」


 ギエルバの生き生きとした表情が現れたのは訓練場や闘技場の話が出たあたりからだった。

 普段つくらないようなものを手掛けるとなると、腕が鳴る! とかそんな感じなのかな?

 私にはよくわからないものだけど、楽しくやれるのであればそれに越したことはない。

 とりあえず、ギエルバが持ち出した案件はこれで片付いたので、彼らを再び街まで送ろうと私は席を立ち彼らまで歩み寄る。


「とても有意義だったわ。忙しいのに時間を割いてしまってごめんなさい。この後も頑張ってくれると嬉しいわ。じゃあ、街まで送るから――」


 と私が彼らを街まで送ろうと手を伸ばすと、既にそこには二人の姿はなかった。


 あれ?


 少し困惑していると、私の目の前にアルトリアスが姿を現した。

 先ほどまで席にいたはずの彼女が今は眼前に居る。


「岩窟人どもは吾が送っておきました」


 そういいながら、彼女は手持ちの布で手を子細に拭いていた。



 



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