第4話 市松人形 Coming・・・

 あれは、私が家のベッドでくつろいでいた時の事です。

 そろそろ寝ようかと照明を消して横になった直後でした。

 不可解な圧迫感が私の身体を包み込み始めました。

 来たな。

 私には分かりました。これって、金縛りになる前触れなんです。

 案の定、二つと息を継ぐ間もなく、全身の筋肉が硬直して動かなくなりました。

 何が来たのか。

 私は眼を見開きました。

 いました。

 私の脚元に、着物を着た少女の姿が。

 闇に浮かぶモノクロの不気味なそれは、まるで中空をスライドするかのように、脚を一切動かさないままで私に近付いて来ます。

 その容姿に、妙な違和感を感じました。

 分かった。

 人じゃない。人形だ。

 市松人形だ。

 でも、御召し物は華やかな柄ではなく、白と黒のモノトーン。

 まるで切り絵の様なその容姿は、私の腰の高さ位の身長で、近付くにつれ、徐々に大きくなっているような気がします。

 顔は無表情。

 細い目が、私をじっと見据えます。

 これって、ヤバい奴かも知れない。

 私は大きく息を吸うと、一気に吐き出しました。

 途端に、全身を緊縛していた麻痺が一気に弾け飛ぶ。

 これは、私なりに考えた金縛りを解く方法です。

 その勢いに任せて、私は一気に上体を起こします。

 私の意識は完全に覚醒しており、市松人形の姿を真正面から捕捉。

 左手の拳を結び、起き上がった勢いのままに市松人形の腹部に叩き込む。

 刹那、粉々に四散して消え失せました。

「もの」と接触した感覚は何も無かったのですが、捉えたという感覚は、はっきりありました。

 それに、言葉ではそれなりの格好いいい表現をしていますが、実際にはへろへろの猫パンチです。

 意識は覚醒していましたが、筋肉にはまだ麻痺が残っていましたので。

 それでも、私の予期せぬ行動に戸惑ったのか、一瞬、市松人形に戸惑いの表情が浮かんだような気がします。

 その後、部屋を見渡してみたのですが、人形の姿は無く、空気も特に重くはない。   

 どうやら奴は退散した模様。

 霊に物理的攻撃は通じる――これって、霊能力のある、とある芸人さんが某SNSの御自身のチャンネルでおっしゃってたことです。実際には芸人さんのお父様が実証したそうなんですけど(このお父様、元僧侶で凄い御方らしい)。

 そこで、私にも出来るかもしれないと思い立ち、咄嗟にやってみた次第です。

 行き当たりばったりの実証実験でした。

 今回は旨く祓えましたが、もっと強い相手には敵うかどうかは何とも言えません。

 とは言え、そんなヤバい奴とは接触したくないですけどね。 

 正直言ってこの方法、余りお勧めは出来ません。

 万が一失敗して、あちらにとりこまれてしまったら・・・。

 そうなったとしても、申し訳ありませんが私には何もできませんし補償も致しませんので。あしからず。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る