第21話 ぎいいいい

 これは、私が新潟の家で体験したお話です。

 息子――霊感のある方――が高校生の時、部活の事で大喧嘩した事がありました。顧問の先生のやり方に疑問を感じ、先生に電話を掛けた事で彼の逆鱗に触れたのです。

 自分の事だから余計な事をするなと言うのが彼の言い分でした。

 親馬鹿かもしれませんが、彼が思い悩んでいる姿を見て、何とかしないとと考えた挙句、私の判断で行動したのが良くなかったのでしょう。

 激しく口論していた最中、不意に彼が口を閉ざしました。

 驚いた表情で、何故かキッチンの方を見ています。

 彼にどうしたのかと問い掛けると、食器棚を指差しました。

「食器棚の扉が勝手に開いたんだ」

「え? 」

 あり得ないんです。

 食器棚の扉は観音開きで、マグネットのロックがかかる様になっており、簡単には開かないはずなのです。

 過去に震度五の地震にみまわれた時も、食器棚の扉は開かず、その後の余震にも耐え抜きました。

 人の手で、そこそこ力を入れないと開かないはずの扉が、勝手に開くなんて・・・。

 余りにも不可思議な出来事に口論は中断。喧嘩は自然消滅しました。

 いったい、あれは何だったのか。

 その後、すぐに目の前で起きた現象を検証したのですが、答えは出ず。

 ひょっとしたらですが。 

 彼が起こしたのではないかと。

 彼は霊媒体質で、色々なものを引き寄せてしまうのですが、この日は怒りが引き金になって反対に内なる力が迸って、起こりえない現象を引き起こしたのかもしれません。

 開くはずの無い扉が開くという現象、実は他にもあったんです。

 その日、私は新潟の家に帰省していました。

 夜中に高速道路を車で走って来て、着いたのが早朝だったため、その日、夕食を取った後、私は電池切れになってしまいました。

 強烈な睡魔に耐え切れず、私は居間の書棚の前にごろりと寝っ転がりました。

 途端に、久々の軽い金縛り。

 これはすぐに解けました。

 が、妻と息子が怪訝な表情でこちらを見ています。

 私が瞬間的に金縛りに掛かった時、変な声でも上げてしまったのでしょうか。

 違うようです。

 二人の目線は、私の背後にある書棚を見てるんです。

「どうしたの? 」

「棚の戸が勝手に開いたの」

 妻が不思議そうに書棚を指差しています。

 確かに、扉が開いていました。

 この扉も、食器棚同様にマグネットのロック付きで、人の手で引かない限りは開くことは無いのです。

「何か連れて来たんじゃないの? 」 

 妻が困惑顔で私に問い掛けます。

「いやあ、何も憑いてないと思うけど。何も感じないし」

「でも、猫達が逃げ回っているじゃない」

 確かに。私の家には猫が三匹いるのですが、一番年上の猫を除く他の二匹は、私の顔を見ると酷く怖がり、逃げ回るのです。でもまあ、これは今日に始まった事じゃないので、普段見ない私を警戒しているのだと思います。古株の猫様は私をちゃんと家族と認めてくれるのですが。

 結局この現象も、なぜ起こったのか分からずじまいでした。

 強いて言えば、一瞬でしたが私を襲った金縛りが何かしら関係しているのかもしれません。


 あれから何年か経ち、この体験談を文章に起こしている私に、ふと妻が呟いたんです。

 今年は仕事でお盆に休みが取れなかったので、日をずらして休みを取り、新潟の家に帰って来って来ていました。

 かなり過去の話ですので、妻と私の記憶を照らし合わせながら文章をを作成していたのです。

「あれって、お父さんと〇○がいたから起きたんじゃない? 」

 〇○と言うのは、霊媒体質の私の息子です。

 確かに言われてみると、どちらの場合も私と息子がセットでその場にいたのですが・・・。

「だって、二人がいなくなってから、家で変な事が起きなくなったし」

 妻のその一言が、決定打でした。

 息子が家を離れて大学に進学し、就職は県外へ。そして私も息子の進学と同時に単身赴任で県外へ異動になっています。

 どうやら、その頃から家で不思議な事は起きなくなったらしいのです。

「ひょっとして、俺達が引き寄せてた? 」

「多分」

 妻は自信ありげに頷きました。

 確かに、私と息子も、家を離れた先で、それぞれ不可思議な経験を繰り返しています。

 そう考えれば、妻の推察は現実味を帯びています。

 と言うか、正解なのかもです。

 因みに、私と息子は近々懇意にしている神社でお祓いを受ける予定です。

 最近、お互い色々と間一髪でセーフな事態が続いていますので。

 これをきっかけに、何かしらの変化がありますように。


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