第123話 胸の上に・・・

 これは、小学四年生の時、担任の先生から聞いたお話です。

 その先生は男性の方て、甘いマスクに長身でスリム、そしてとても優しく、生徒からの人気はダントツでした。特に女子人気は凄かった。バレンタインデーの時なんか、両手に抱えきれない程のチョコを抱えて職員室に戻るのを見た事があります。

 因みに、当時先生は既婚者だったんですが、子供にはそんなの関係ないですからね。

 この先生、今思えば生徒の心を掴むのに長けていたと思います。だらだらと授業をするのではなく、皆の集中力が落ちて来たなと思うと、授業とは関係の無い話をしてくれていましたから。 

 よく話してくれたのは、若い頃のお話ですね。子供の頃のお話や、先生になりたての頃のお話とか。

 その日、お話して下さったのは、先生がまだ

教職につかれて間もない頃の体験談でした。

 当時、先生はとある民家に下宿されていたそうです。

 下宿って聞いても、若い世代の方にはピンとこないかもですね。

 それとも、今もあるんでしょうか。

 昔、普通の民家もしくはアパートのような集合住宅で、食事付きで部屋を貸してくれるところがあったんです。

 バス、トイレは共用で、部屋は一室のみ何ですが、食事付きだったので、よく学生が利用していたんですね。

 先生が間借りしていた部屋は民家の一室で、特に変わり映えはしなかったそう。

 強いて言えば、神棚があった位だそうです。

 普通、神棚は家族が集まる今にあるイメージが強いんですが、先生は特に気にしなかったとの事。

 さて、ある日の夜、先生がその部屋で寝ていますと、何か胸が苦しい。

 胸やけとか、そう言ったものではなく、何かが圧迫している様な感じだ。

 誰かが、自分の上に乗っている――彼はそう直感した。

 でも誰が?

 恐る恐る目を開ける。

 人影が見える。

 皺だらけの顔。

 老人だ。

 長い白髪とこれも長く伸びた白い髭を蓄え、白っぽい着物を着た老人が、先生の胸の上に座り、じっと見降ろしている。

「うわっ! 」

 驚いた先生は、上体を起こしながら力任せにその老人を跳ね飛ばしました。

 すると、老人の身体は中空を飛びながら、見る見る間に小さくなると神棚の中へ消えて行ったのです。

「今のは、何・・・!? 」

 先生は呆然と神棚を見上げました。その後、ろくに眠れぬままに朝を迎えたそうです。

 翌日、先生は昨夜の出来事を家主の方にお話ししました。すると、その方は凄く残念がられたそうです。

 家主の方の話では、先生の胸の上に乗った老人は、その家の守り神――家神様だったそうです。

 家神様が現れた時、何か願い事をすれば叶うとの事。

 残念ながら、先生は願い事どころか神様をふっとばしてしまったんですよね。

 先生はその後もその部屋で生活したのですが、家神様は二度と現れてくれなかったそうです。

 因みに、先生はその後、胸の病気を患ったそうです。

 先生は、たぶん神様に失礼な事をしたからばちが当たったのかもしれないと、残念そうに苦笑いをされていました。

 その当時は、素直に先生の意見に頷いていたのですが、ひょっとしたら神様は彼に警告する為に現れて下さったのかもしれませんね。

 胸の病気に気をつけろ――と。

 神様が現れたのが先生の胸の上だけに、そんな気がしてならないです。

 



 

 

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