第122話 忘れられない卒業式
これは、私が高校三年生の時に体験した、怖いと言うより不思議なお話です。
とはいえ、心の底から驚愕に震えた出来事だったんです。。
其れは、卒業式の日の事でした。
式は滞りなく進み、卒業証書授与が始まりました。
皆さんもご存じの通り、卒業生は一人一人名前を呼ばれ、壇上に上がって校長先生から卒業証書を手渡しで頂きます。
当時、生徒数が多く、中々自分の番に回ってこないので、徐々に緊張感も薄らいでいきます。
そして、とうとう私の番。
担任の先生が、私の名前を読み上げます。
刹那、私の身体は凍てつき、返事をすることも椅子から立ち上がる事も出来ませんでした。
先生が、私の名前を読み間違えたのです。名字ではなく、名前の上二文字を。
愕然としたまま身動きできずにいる私を、緊張の余りに立ち上がれないと思ったのか、隣の友人が、名前を呼ばれた事を私の耳元で囁きました。
何故、肝心なこの時に・・・。
私は怒りよりも不満が先走っていました。
ですが、仕方がありません。
私は立ち上がると壇上に上がり、校長先生の前に立ちました。
校長先生が、私の名前を読み上げます。
ここでもしっかりと間違えやがった――否、間違って呼ばれたのでした。
卒業証書を受け取り、複雑な表情で席に戻った私は、隣の席の友人にその事を小声で告げました。
すると、友人は訝し気な表情で私を見つめます。
「先生、間違えてなかったぞ」
彼は私の耳元でそう囁きました。
今度は私が訝し気な眼で彼を見据えます。
私は手に持った卒業証書を彼に見せました。
受け取った時に確認したら、案の定、漢字を間違えていたんです。部首は合っているんですけどね。
友人もそれを見て驚いた表情で私を見ました。
彼が言うには、担任の先生も校長先生も間違っていなかったと言うのですが、こっちにはれっきとした証拠が残っている訳で、これが更なる謎を生むことになりました。
式が終わり、卒業生退場の際も、私の気持ちは治まらず、憮然とした表情での退場となりました。
その後、担任の先生にこの不満をぶつけようとしたのですが、慌ただしさに流されて結局そのまま帰宅したのです。
一応、式に出席してくれた母にもその話をしたんですが、何故か母も間違えていなかったって言うんですよ。
「兄ちゃん、余程高校生活がたのしかったんだねえ。退場の時、泣いてたでしょ」
母がけらけらと笑いました。
母上殿、違う違う。
泣いていたんじゃなくて、名前を間違えられたのが腹立たしくて怒りの三角目になっていたのだよ。
両親に卒業証書を書き直してもらおうかと相談したんですが、過ぎた事だしもういいんじゃないとの事。
そんなもんなのけ?
愕然としつつも、結局卒業証書はそのまま仏壇に上げて祖父母に卒業のご報告。
ここまで来ると、もうどうでもよくなってました。
どちらかと言うと、高校生活の思い出がどうのこうのよりも、これから親元を離れての大学生活にわくわくしていたからでしょうか。
卒業式の話のおまけを少し。
私は頭は悪かったのですが、身体は頑丈で健康体だったので、一度も休まなかったんですよ。
其れで、皆勤賞と言う事で、卒業式の時に何故か代表で表彰されることになりました。
因みに、この時は名前、間違われなかったです。
で、問題は卒業式の前日。
突然、生活指導の先生に呼び出されたんです。
私は品行方正を絵に描いたような模範人間――のはずだったのに、何故?
恐る恐る職員室に向かいますと、その先生がおっかない顔で私を睨みつけるんです。
「今日中に髪を切って来い」
私は絶句しました。
私が通っていた学校、校則が厳しいので有名でして、男子は皆、坊主頭だったんです。
ただ、卒業まであとわずかとなると、先生も大目に見てくれて、皆、ここぞとばかりに髪の毛を伸ばすんですね。
ですから、卒業式の時は、三年生は皆、ハリネズミの様な頭になっています。
やっとこれで髪を伸ばせる!
冬に寒い思いをしなくて済む!
そう思った矢先の、非情の御言葉。
先生曰く、みんなの代表として表彰されるのだから、最後位はきちんとしておけと言うのです。
最後位ってのが引っ掛かります。
私、服装検査や毛髪検査で引っ掛かった事は一度も無いんですけど。
最後位って表現は、おかしいですよね。普段やんちゃしてて、最後位ってのなら分かるのですが。
でも、仕方がありません。
泣く泣く坊主頭で式に挑みました。友人の中には何故髪を切ったんだと不思議がる奴もいましたが、私の説明を聞くと、まあ仕方ねえなと苦笑いです。
今回、この話を文字に起こすに当たって、母校のホームページを見てみたんですよ。そうしたら驚きましたね。男子も女子も、制服がめっちゃおしゃれになっていたんです。
おまけに、男子生徒は長髪になってました。
ずるいです。
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