第137話 飛び込んで来た!

 これは、十年くらい前に私が体験したお話です。

 その日は休日出勤で、早朝から会社に出向いていました。

 仕事を早々に済ませた私は、お昼前には退社し、家路を急いでいました。

 季節は冬。

 その日は朝から寒く、空もは良いその雲が重く垂れこめていました。

 これは、人降り来るかも・・・。

 予想通り、やがて車のフロントガラスに白いものがちらちらと降りかかりました。

 雪です。

 大きな粒のふわふわとした雪が、鉛色の空から舞い降りてきました。

 ぼたん雪ですね。

 この雪は積もらずにすぐ解けるんですが、吹雪いて来ると視界が見辛くなるんです。

 吹雪かないうちに、家に帰り着ければいいのですが――なんて思っていると、日頃の行いが悪い? せいでしょうか。次第に振りが強くなり、ぼたん雪は渦巻きながら

フロントガラスに降り注ぎ、視界を奪い始めました。

 そうなれば、アクセルペダルを踏み込む足も自然と緩みます。

 速度を落としながら、慎重に道を進みます。

 雪が厄介なのは、視界の問題だけじゃないんです。勿論、積もったり、圧雪になれば、いくらスタッドレスタイヤを履いていたとて、足回りが不安定になる危惧は拭いきれないんですが。

 実は、眠くなるんです。

 視界に乱舞する雪を見ていると。まるでその中に意識が引き込まれていくような感覚に襲われるんです。

 そうすると、次第に眠気が襲って来るんですよね。

 まるで、催眠術の様に。

 そうなるとヤバいので、目線は常に全体を見る様に小刻みに変化させながら、意識を保つんです。

 家までの距離は大したことは無いんですが、油断は禁物。

 慎重にハンドルを握ります。

 と、其の時です。

 一片の雪が、車の中に飛び込んで来たんです。

 其れも、フロントガラスを突き抜けて。

 驚いて慌ててブレーキを踏みました。

 見間違いじゃない。

 正面から飛び込んで来た雪は真っ直ぐギアレバーのそばまで・・・。

 消えた。

 確かに、飛び込んで来たはず。

 でも。

 あれは、雪じゃないかも。

 白くて、丸い球だった。

 大きさはピンポン玉より少し小さいくらい。

 呆然としながらも、私は再び車を走らせました。

 あれは――恐らく、オーブ。

 憑りつかれた感じはない。ただ通り過ぎただけなのか・・・。

 ただ。

 この道の近くで、不慮の死を遂げた方がいるんです。

 関係は無いとは思うのですが・・・。 

 その後ですが、今のところ同じ現象には遭遇していませんし、特に何も起きていないです。

 

 

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