第136話 過ぎるもの

 これは、つい最近私が体験したお話です。

 時々なんですが、よく分からない光や球体が視界を過ぎる事があるんです。

 時間軸や場所はばらばらなんですが、強いて言えばそれを体験する多くの状況が、神社を参拝している時か近所の散歩中なんですね。

 何だかシチュエーションが無茶苦茶ですが、一つは神聖な場所である事、もう一つは自分が無心の状態になっている時である事、と言ったそれぞれの条件のどちらか一方とタイミングが揃えば、たまに見えてしまいます。

 で、今回目撃したパターンと言うのが散歩中だったのです。

 散歩と言っても、私の場合、ゆっくり歩くのではなくて、競歩の様な感じで歩きます。どっちかってえと、ウオーキングですね。其れに時折走ったりしてます。

 最初の歩き始めの頃は、色々と考え事をしたりしているんですが、終盤に差し掛かる頃――一時間程歩き続けますと、何も考えない状態になる時があるんです。

 この時、私は何かしらの体験をしてしまうのです。

 その日も、約一時間程歩いてもう少しでアパートにつくというタイミングでした。

 ウオーキングのコースの途中に小学校があるんですが、その前の歩道を私は黙々と歩いていました。

 ただ前をじっと見据えて。

 この時、私の意識は無心の状態でした。無我の境地とまでは行かないでしょうけど、それに近い状態でした。

 不意に、視界を何かが過ぎります。

 一瞬、白い光の矢のようにも見えました。

 それは、猛スピードで私の視界を通過し、小学校の正面玄関へと消えて行きました。

 あの、飛行の仕方は昆虫ではないです。

 昆虫のわけが無い。

 だって、今はもう十二月中旬。飛翔する虫などいない。

 じゃあ、さっきのあれは何?

 不可解な飛行物体が消えた小学校の正面玄関に目を向ける。

 暗い影を落とす硝子戸は固く閉じられ、関係者以外の立ち入りを頑なに拒んでいる。

 一瞬にして視界を過ぎる速度で通り過ぎたのだ。

 余程の制動力が無い限り、硝子戸に激突してもおかしくはない。

 だが、私には、それが硝子戸に衝突した音は全く聞こえなかった。

 通過したのか?

 硝子戸を。

 疑問に思いながらも、私は歩みを進めました。

 夜の小学校の前で、しかも直立不動で玄関を見つめている人物を見たら、妙に思うでしょう。不審者に間違われるのが嫌だったので、ろくな検証も出来ないうちにウオーキングを再開しました。

 と、不意に道を膝程までしか高さの無い小さな黒い影が横断していきます。

 犬? 猫? どちらでもない・・・。

 動物なのは確か。

 明らかに、四つ足で歩いているように見える。

 でも、脚は見えない。

 半透明の黒い影だけの存在。

 其れは、まるで四脚歩行しているかのように、小刻みに体を揺らしながら、反対側に立ち並ぶ家の庭へと消えて行きました。

 直感的に、さっきの飛行物体とは関連性は無さそうでした。

 ここで、散歩は中断。

 帰路につきました。

 このまま歩き続けると、また何かに出くわす様な気がしたんです。

 どうやら、今夜は街に潜むこの世ならざるものと波長が合っているようですから。

 


 

 

 

 

 


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