第138話 通過する影

 つい最近なんですが、息子のアパートに行く用事がありまして、彼の部屋に上がったんですよね。

 私、ちょっと気になる事があったんです。

 以前、ここでもお話を紹介させてもらったんですが、彼が赤いパーカーを着たニキの幽霊を見た場所をちゃんと確認したかったんです。

 見たからどうなるって訳じゃないんですけどね。よく言う霊道があるとかないとかは、私が見ても分かりませんですし。せいぜい、嫌な感じがするとか、どおおおんと気が重くなる程度なので。

 内見時には私も見ているので、そんな感じは無かったですから、間違いなく彼の体質のなせる技なのでしょう。

 霊媒体質というか、引き寄せタイプというか。

「ニキはどの辺に立ってたの? 」

「ここだよ」

 息子が示したのは、寝室のど真ん中でした。寝室と居間の間には襖があるんですが、彼はそれを開けっぱなしにしていて目撃したそうです。

 でも、寝室を見たとて変な感じは無し。

「あれからも出るの? 」

「出ないよ。あれ一回だけ」

「そう・・・」

 じゃあ、ただ単に通りすがりの霊ちゃんて感じなのか。

「でもねえ、最近、黒い影が通り過ぎるんだよね。あれは嫌だな」

 息子が困った表情で和室の方を見ました。

「それって、ヤバい奴じゃないのか!? 何回も通るの? 」

「うん。でも嫌な感じはしないし、何も悪さはしてこないから」

 悪さしないとはいえ・・・。確かに、金縛りとかも無いようですから、ただただ通過しているだけなのか。

「まだ白い珠位ならな。最近、俺の部屋でもたまに何か飛んでるけど、まあ、嫌な感じはしないから」

「白い珠も飛ぶねえ。前に居間で飛んでた」

 笑みを浮かべる息子に呆れたと言うかなんというか・・・他の方が聴いたらなんて思うのか。

 普通なら不思議な出来事でも、彼にとっては日常茶飯事のようです

 でもね、おまえも一緒だわと言われそうな気もせんでもないです。

「この話、まだ聞いてなかったぞ。どうして教えてくれなかったの? 」

「いやあ、エピソードに乏しくてさ。文章にするにはどうかと思って」

 さらっと言ってのける彼。

 いや、十分です。これだけ具だくさんなら、十分文字に起こす価値がある。

 また何かあったら呼んでくれと言い残し、私は彼のアパートを後にしました。

 実際呼ばれても、私には何も出来ないんですが・・・。

 せいぜい、話のネタを聞かせてもらった御礼に飯を奢る位です。

 また時間が合えば、彼にパワースポット巡りに同行してもらおうかと企んでいます。

 我々二人が揃うと何かと不思議な事が起きるので、それを期待して。

 こんなこと言っちゃあ、ばちが当たりそうですけど。


 

 

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