第139話 怖い
これは、息子が今までで一番怖かったと話していた彼の体験談です。
息子がまだ大学生の頃の話なのですが、この頃はちょうどかの流行り病がパンデミックの最中で、大学の講義もWEBで受ける事が多く、大変だったようです。
部屋にじっと籠っている事でのストレスと疲労もかなりのものでした。
そうなれば、どうしても生活のリズムも乱れがちになります。
その日の夜、疲れ切った彼は早々に眠ることにしました。
布団に潜り込み、眼を閉じます。
ふと、瞼の裏――右端の方に、何か妙なものが見えます。
其れは、画像の様でした。
彼は意識を其の画像に集中し、目の前まで引き込みました。
其れは、何処かの民家を写した画像の様でした。
胸位の高さの生垣に囲まれた、古い平屋の木造の家屋。
彼が見ているのは、その家の縁側に面した庭の風景らしい。
でも、こんな家、見た事が無い。
!?
彼はぎょっとしました。
縁側に、一人の痩せ細った老人が腰を降ろしている。
老人は藍色の着物のようなものを纏っている。後で考えると、着物ではなく作務衣かもしれない。
髪の毛のない禿げ上がった頭。
ぎょろっと見開かれた両眼。
まるで蛇の様な風貌に、息子はぎょっとしたままその老人を見つめた。
誰だろう。見覚えは無い。
だが、その老人は、息子の事を知っているかのように見受けられた。
彼はは、無言のまま息子を見据えている。
満面に怒りの表情を浮かべて。
憤怒に強張る顔。
鋭い眼光。
老人が醸す怒りが、息子の意識を底知れぬ畏怖に陥れる。
ごめんなさい。
息子は、その老人に謝罪した。
幾度も、幾度も。
何故そうしたのかは分からない。
でも、目の前の不条理に満ちた光景が、彼をそうせざるを得ない心境に追い込んでいた。
画像が、彼の視界から消え、再び彼は眼を開いた。
あれは、何だったのだろう。
夢じゃない。眠っていた訳ではないのだから。
それに、金縛りに遭っていた訳でもない。
つまり。
実際に起きた、紛れもない事実なのだ。
息子が見たという老人の風貌から、最初にイメージしたのは、私の祖父の事だった。
祖父は瘦せ細った体躯だった。ただし頭は禿げ上がってはいない。額は広かったが、頭髪は生えていたのを覚えている。
息子にとっては曽祖父に当たるのだが、もうかなり前に亡くなっており、当然、彼は会っておらず、その姿は知らないはずだった。
因みに、私が幼児期を過ごした家は、平屋で、庭に面した廊下沿いに縁側があった。
但し、縁側の有る庭の向こうには家が一軒建っており、その境界は、ブリキの波板製の塀で仕切られていたので、そちらに生け垣は無かった。
息子の見解では、其の時、結構乱れた生活を送っていたので、御先祖様に叱られたのかもしれないとの事でした。
そうなれば、曽祖父よりもっと以前の御先祖様が現れて、息子を叱咤したのかもしれません。
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実は・・・ しろめしめじ @shiromeshimeji
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