第53話 枝の間から
これは私が大学生の時のお話です。
当時は、まだ携帯電話やデジカメなど影も形もありませんでしたので、写真を撮る時は、もっぱら使い捨てカメラを使っていました。
ボディが厚紙で出来たチープ故の手軽さが受け、一世風靡いたカメラなんですが、結構ちゃんとした写真が撮れたんです。
カメラにフィルムを使い切ったら、現像に出して終わり。ボディは廃棄されますので「使い捨て」な訳です。
昔、この使用後のカメラを買い取って、フィルムを再度セットして販売した会社が製造元から訴えられた事件がありました。
まあ、それだけ需要があったって事なのでしょうね。
今の若人達は知らない人も多いかも。それにもう売っていないですかね・・・と思ったら、売ってました。
デジタルな画像とは違う、アナログな感じが良いそうです。
さて、その日は確か学校で友人達と写真を撮ったんです。何で撮ったのかは、よく覚えていません。
何日かに分けて撮ったものを現像に出し、出来上がった写真を見ていると、妙なものが1枚ありました。
学校の植え込みがあるロータリー周辺で、談笑中の友人達を撮ったのですが、写真の半分が真っ白。写真の中程には、横方向から自転車の白いサドルのような物が写り込み、そばの桜の木の間から白い顔のような物が覗いているんです。
サドルも向き的に違和感のある映り方ですが、サドルだと言えばサドルでした。ただ後者の方は、どう見ても説明がつかないのです。
私は学校に写真を持って行き、友人達に見せました。
彼らに写真を見せると、半分が白いのはフィルムの送りが悪かったんじゃないかと冷静な答え。でもそれなら、白じゃなくて黒くなるんじゃないかと話すと、腑に落ちぬ顔で頷いていました。
ただ、木の間の顔は、彼らも素直に霊が映っていると認識しました。
たまたま通りかかった先輩にも写真を見せると、彼は眉間に皺を寄せながら、
静かに頷きました。
問題の木の根元に、実験で犠牲になったハツカネズミなどの小動物を埋葬したお墓がある――先輩は私達にそう語って下さいました。
早速現地確認に行くと、確かにありました。
桜の木の根元に土がこんもりと盛られ、「動物の墓」と書かれた板切れが差し込んでありました。
写真に写った動物の霊からは、勝手な解釈かもしれませんが、怒りとか恨みの感情は感じられませんでした。
少しは供養されているという事なんでしょうか。
でもね、この写真、他にも妙なものが写り込んでいるんです。
桜の木の向こうに校舎が写っているんですが、其の二階の通路側に、ぼんやりと人影が写っているんです。
白衣らしきものを纏った人影が。
パンパンに膨らんだ顔が苦悶に歪み、大きく開いた口が何かを訴えかけてえいる様にも見えます。但し目線は、私達ではなく別の方向に向けられているように見えました。
でも何故か、友人達にはその姿は見えていないのす。
色は無く、透明なのですが、明らかに輪郭があり、その存在をはっきりと認識できるのにもかかわらず、です。
其れともう一つ。
自転車の白いサドルの様なもの――あれってよく見ると人の顔なんです。
白い首から伸びたそれは、鼻から下だけしかない、半分だけの顔なんです。
口の様に見える部分が、おどけて口角を上げている様に見えるんです。
残念ながらこの写真、引っ越しした時に無くしてしまい、今は手元にはありません。
再検証すれば、ひょっとしたら他にも写っていたかもしれません。
動物のお墓以外、特に謂われのない場所なんですけどね。
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