第52話 行くもんじゃない

 これは大学生の時に、とある友人から聞かせてもらった体験談です。

 その日の夜、彼は友人四人と和歌山の方にある有名な観光地に車でドライブに言ったそうです。

 美しい青い海に臨む切り立った崖、そこに繰り返し打ち返す荒々しい波がおりなす風光明媚な観光地なのですが、ご察しの通り、ここは自殺の名所としても有名な場所なのです。今はどうかは分かりませんが。

 美しい風景に身を投じ、この世の苦しみから逃れたいとの思いからなのか、それとも先に命を絶った者から引き寄せられてしまうのか・・・こういった観光地にありがな陰と陽の二面性が、その場所にも秘められていました。

 そんな場所にわざわざ夜に出向くなんて・・・。

 そう。彼らの目的は心スポ巡りだったんですね。

 たまたま私は誘われませんでしたが、もし誘われたとしても絶対に行かなかったと思います。

 昼間に観光で訪れるのでしたら、まだ別ですが。

 彼らは三段壁に着くと、ぶらぶら周辺をうろついたものの、特に何も起きなくて拍子抜けしていたようです。

 やがて、彼らはあるものに気付きました。

 電話ボックス――いのちの電話です。

 ここで命を絶とうとする者に、救いの手を差し伸べる最後の砦とでも言うべきものなのでしょう。

 彼らは、その電話ボックスを興味本位で見ていました。

 その時です。

 電話ボックスのドアが勝手に開き、閉じました。

 誰もいないのに。

 風が特別強い訳でもないのに。

 彼らは絶叫を上げると車に駆け込み、一目散にその場を離れたそうです。

 そこにいた全員が目撃したそうなので、決して目の錯覚ではないようです。

 ひょっとしたら、その場所で自ら命を絶った者が、絶命してもなお、死を選んだ事に迷いがあり、いのちの電話にすがろうとしているのかもしれません。

 心スポなんかには行くもんじゃない――この話を聞いた時、私はつくづくそう思いました。

 彼らはその後、特に霊障は無かったようです。

 でも。

 私なら、何かをお持ち帰りしそうで・・・。

 実は私、以前昼間にここを訪れた事があったのです。

 まだ、小学生の頃ですが、夏休みの家族旅行で訪れました。

 昼間ですと、崖の上から海面近くにある洞窟までエスカレーターで降りることが出来ました。私も親に連れられ、其の洞窟まで降りた事があります。

 洞窟の一部は海に面しており、昔、有名な水軍がそこに船を隠していたというお話があるそうですが、激しく打ち付ける波を見ていると、まず無理じゃないかと子供ながらに首を傾げたのを覚えています。

 洞窟には弁財天が祀られているのですが、どうも私にはその場の空気が気持ち悪くて耐えられず、早々に崖の上まで戻りました。

 今行けば、当時とはまた違った感じ方をするのかもしれませんが。

 


 

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