第23話 守っているからな

 これも、私が高校生の時のお話です。

 祖父が亡くなってから何日か経ち、漸く生活に落ち着きを取り戻した頃でした。

 母が突然、祖父の夢を見たと言い出したんです。

 母の夢の中で、祖父は家の上空から「お前達を守ってるからな」と言ってくれたそうです。

「それはいい夢だね。おじいさんが守ってくれているなら安心だな」

 眼を細めて話す母に、私はそう答えました。

 祖父が母の夢枕に立ったのも分かるような気がします。

 祖父が闘病中、母は懸命に看護していましたから。確か先に亡くなった祖母の時もそうだったと思います。

 それに、母は凄く強い神様い守られているらしいんです。

 以前、とある宗教の方が、勧誘しようと家にやって来たそうです。

 その方は、対応しようと玄関にやって来た母を見るなり、「あなたが凄く強い神様に守られています」と言い残し、そそくさと帰ってしまったのだそうです。

 真偽の程は分かりません。

 果たして、その宗教の信者の方が本当に見えていたのか。

 母をスピリチュアルな世界に関心を持たせ、あわよくば信仰に引き込もうと企んでの発言なのか。

 でも、後者なら、早々に立ち去らずに、続けて母を勧誘したに違いないでしょうし。

 よく分からない話ではありますが、母は万更でもなかったようです。

 さて、話を元に戻します。

 私は祖父にお礼をしようと仏壇の前に立ち、手を合わせました。

 私の家は禅宗でしたので、仏壇は決して煌びやかなものではありませんでしたが、その素朴さが荘厳な雰囲気を醸しており、私はむしろこちらの方が好きでしたね。

 祖父に感謝の言葉を伝え、顔を上げました。

 えっ・・・?

 私は眼を見開きました。

 あの時、眼球が零れ落ちそうになったのを覚えています。

 仏壇の奥の壁の部分に、何やら影の様なものが浮き上がっているのです。

 それが何なのか、私は一目で分かりました。

 祖父です。 

 お気に入りのベストを着て、にこやかに微笑んでいる祖父の姿が浮き上がっていたのです。

 私はすぐに母を呼びに行きました。

「お母さんの見た夢、本当だった」

 私は母を仏壇まで連れて来ると、奥の壁に浮き上がった祖父の姿を指差しました。

 刹那、母の表情が強張りました。

「変な事言わないでっ! 」

 母は私を一喝すると、すたすたと足早に立ち去って行きました。

 さっきまであんなに夢の話を嬉しそうにしていたのに。

 てっきり喜ぶかと思っていたのに、母の豹変ぶりは異様でした。

 私はその後、仏壇の前に立っては祖父の姿を確認しました。

 気のせいでしょうか。

 祖父の姿は日に日にはっきりとしてきた様な気がしてなりませんでした。

 ある時、祖父の姿が現れた仏壇の壁の前に、先祖代々の位牌が置かれていました。

 今までは無かったものですから、突然現れた位牌に面食らう私。

 置いたのは間違いなく母だと思います。

 位牌の陰に隠れ、祖父の姿は確認出来なくなってしまいました。

 供養するために置いたのでしょうけど、そのタイミングが余りにも唐突過ぎて。

 確かに、母は怖がりな人ですから、こういった話は超苦手なのは分かります。

 ですが――まあ、いいですけど。

 

 

 

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