第30話 誰?

 これは、私が小学生の頃、体験したお話です。

 夏休みになると、私の住んでいた町内の子供達は、夜、公園に集まり、お盆に行う盆踊りに向けて練習をしていました。

 勿論、親も同伴していましたが、私達は普段遊べない夜の外出にハイテンション気味になり、練習が終わっても友達同士で遊んだり、帰り道に寄り道したりしてすぐには家に帰りませんでした。

 それでも親は叱りませんでしたから、今と比べると信じられない位大らかな時代だったような気がします。

 その日も、私は盆踊りの練習が終わってもすぐには帰らず、友達数名と町内の道をうろうろと歩き回っていました。

 ふと見ると、四つ角の辻の街灯の舌に、ワンピース姿の女性が一人、佇んでいました。

 ワンピースですが、確か花柄の模様だったような気がします。

 私達は何気にその女性に近付いて行きました。

「おばさん、何してるの? 」

 友人の一人がその女性に声を掛けました。

 が、女性からは何の返事もリアクションもありませんでした。

 普通、小学生に声を掛けられたら、何らかのリアクションをすると思うのですが・・・そうでもないのでしょうか。

 その時、私はある事に気付きました。

 女性の顔が見えないんです。

 まるで、崩れた点描画の様に、顔の部分だけがぼんやりとぼやけているのです。

「お化けだっ! 」

 私は思わず叫びました。

 すると、他の友達も『わあああっ』と叫び声を上げる。

 と、同時に、私達は一目散に公園へと駆け出しました。

 その夜はそれでお開き。皆、足早に家路につきました。

 翌日、私は友達と昨夜女性が立っていた道の四つ角を通りました。

「昨日見たおばさん、やっぱお化けだったのかな? 」

 私はそう、友達に話し掛けました。

「えっ! おばさん!? 何の事? 」

 友達が驚いた口振りで私に問い掛けてきました。

「えっ? あのお化けの」

「お化け? そんなの見ていないよ」

 私の回答に、彼は首を傾げました。

 本当に覚えていないようです。

 ふと、私は気付きました。

 あの女性が立っていた背後に、杭を打ち、ワイヤーで仕切った簡単な柵があるのですが、そこに何かが掛かっていのです。

 ハンカチでした。

 白地に花柄模様の、タオル地のハンカチ。

 あの女性が着ていたワンピースの柄に似ていました。

 本人の落とし物?

 でも、いくら柄が似ているとは言え、そうとは限りませんし、実際どうなのかは分かりません。

 私はふと、あの時の状況を思い浮かべてみました。

 確か、女性の背後に街灯がありましたから、ひょっとしたら逆光になって、偶然顔が見えなかったのかもしれません。

 でも、友達がその女性の事を覚えていないのは何故なんでしょうか。

 謎です。

 

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