第31話 さっきの何?

 その日、私は息子と某観光地の神社を訪れていました。

 車を駐車場に停め、後はずっと歩きっぱなし。

 見どころはそれぞれが近い所にありましたので、かえって歩きの方が融通が利くんです。

 当日は、日曜日と言う事もあってか、多くの観光客が訪れていました。

 私と息子は、観光客の列に続き、目的の一つである拝殿に向かいました。その後、そばにある別の神社や寺院をお参りし、再び神社の山道を歩いたりと、気の赴くままに観光を楽しんでいました。

 息子はお守りが気になっていたのか、社務所で幾つか授かっておりました。私はと言うと、御守りよりも、もっぱら御朱印を授かるのがメインです。

 男二人であちらこちらを彷徨いながら歩き回っていたのですが、最初の方でお参りした神社が気になるからってので、もう一度立ち寄る事に。

 石段を登り、鳥居をくぐろうとした時です。

 妙な気配に、私は鳥居を見上げました。

 あれは、何?

 私の眼は、妙なものを捉えていました。

 たなびく雲の様な、渦巻く何か。

 煙じゃない。

 渦巻く其れは、四散する事無く、一つの塊のまま、右から左へと横にスライドしている。

 恐怖心は無い。

 でも、とんでもなく気持ちが悪い。一瞬、吐き気がするような不快な感覚が私の意識を揺さぶりました。

 消えた。

 鳥居の中程に差し掛かったところで、それは跡形も無く消え失せたのです。

 「お父さん」

 不意に、息子が声を掛けてきます。

「何か変なものがいたね」

 息子も気付いたようです。

「うん、凄く気持ち悪い」

「だよね。僕は頭が痛い」

 息子が言うには、突然、耐え切れない様な頭痛が彼を襲ったらしい。

 その時、得体の知れない何かが、左から右へと抜けるのが分かったという。

「さっきの、何だったんだろう」

 息子は首を傾げました。彼には、あれが霊的な存在の様には思えなかったそうなのです。

 それには、私も同感でした。

 敵意こそ感じられなかったものの、係わりを拒むような不快感を及ぼす存在・・・恐らく、妖の類かと思います。それがどんなものなのかまでは分かりませんが。

 因みに、私と息子は同時にその存在に気付いたのですが、驚いた事に、各々感じ方が異なっていました。

 私は不快感。

 息子は頭痛。

 あれが、私達に及ぼした障りではない様な気がします。

 明らかに、あれは私達には無関心の様に感じられましたから。

 これって、ひょっとしたら、私達の守護霊が何かしらの信号を送って下さったのかもしれません。

 あれに関わってはいけない。

 後追いするな、と。

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る