第78話 雲
これは、内陸部の山中にある某神社に行った時のお話――前話の続きです。
山頂部の奥宮を参拝し終えた私は、拝殿の方に向かいました。
身体が酔っぱらったみたいに熱くふわふわしています
この時、私は何とも言えない心地良い気に包まれていました。
まるで重装備の装甲歩兵並みの強力な鎧をまとったような感覚でした。
と、其の時、拝殿前の土産物屋の前で、何やら大きな影が動くのを目撃。
一瞬、驚きの余りに固まってしまう私。
野生の鹿です。角はありませんでしたから、雌の様です。
私以外の参拝客も、唖然とした表情で立ち竦んでいます。中には臆せず、すぐにスマホで画像を撮りまくる強者もいましたが。
ところが鹿の方は、意外にも人慣れしているのか、悠々とした足取りで参拝客の間を抜け、道の反対側の斜面を下って行きます。斜面の下をよく見てみると、そこにももう一頭いました。
人と自然との共存ともとれる、不思議なワンシーンでした。
後で思えば、霊とご対面した時よりもびびっていましたね。
土産物は後でゆっくり見るとして、私は参道を進みました。
鳥居が見えて来ました。
ここの鳥居、不思議なんです。
大きな鳥居の左右に小さな鳥居がくっついているんですよね。これは「三之鳥居」といって、非常に珍しいものだそうです。
その手前には、狛犬ならぬ狛狼が左右に鎮座されています。なかなかりりしい風貌をされています。こんな言い方をしたら怒られそうですが、素直にかっこいいと思いました。
ここまで描写すれば、ここが何という神社なのか、分かる方には分かるでしょうね。
趣のある参道を進みながら、本殿に向かいます。
先に山道を登って奥宮を参拝した後にも拘らず、体の疲れは全くありません。むしろ、とてつもない高揚感が、私を包み込み、尋常じゃない量のアドレナリンが、噴流となって全身を駆け巡っているのを感じます。
大きな随身門をくぐり、本殿へ。ここは既に手前の石段の下まで行列が出来ていました。
素晴らしい装飾の手水舎や灯篭を眺めつつ、石段を進みます。
神社に参拝していつも感心に思うのですが、参拝される方々は列を乱す事無くきちんと整列するんですよね。割り込みをするような非常識な方は今までに一度も見た事がありません。
本殿の前までやってきました。
二礼二拍一礼し、日頃御加護を頂いておりますことへの感謝を述べます。
参拝を終えた私は、本殿前の石畳に浮きあがった龍神様の御姿を拝見し、画像に納めさせて頂きました。
奥宮で見た黒い龍雲は、この龍神様だったのだろうか・・・そう思いながら、大人げなく何枚もシャッターを切りました。
その後にお守りを授与していただき、帰路に着きました。駐車場に戻ると、道路は空き待ちの車で長蛇の列。
これは申し訳ないと急いで車の元へ。
駐車場を出ると、驚きでした。
車の列は駐車場の前だけではなく、思っていた以上に後ろの方まで続いています。
道が狭いので、私はゆっくりと車を進めました。
これからしばらくはカーブの連続です。
数分下った所で駐車スペースを見つけたので、車をそこに止め、昼食を取ることしました。
そこは視界の開けた場所で、連なる山々の緑が目を和ませてくれます。
空は雲に覆われ、暑くも無く、寒くも無く、丁度よい感じです。
昼食を通た後、私は車から降りて風景の写真を何枚か取りました。
神社もそうでしたが、ここの山々自体、とても優しい気に包まれている様に感じられます。
でも、山中には熊も生息しているとか。奥宮参拝時には、注意が必要です。
再び車に乗り込み、帰路に着きます。
途中、近くの道の駅により、日帰り温泉に入ってくつろぎました。休日だったので混雑しているかと思ったのですが、そうでもなかったですね。たまたまだと思うのですが、広い湯船はほぼ貸し切り状態でした。食事処は満席でしたが。
その後、すぐそばに流れる川を見に行こうとした時、二匹のわんちゃんを連れた夫婦と擦れ違いました。
するとそのわんちゃん達、私にすり寄って来たんです。
「すみません」
飼い主さん達は私に謝りましたが、全然大丈夫。むしろうれしい位でした。
私は何故か、わんちゃんに吠えられるか無視されることが多く、先様から寄って来るのは珍しいんです。
因みに、話はそれますが、家にいる猫様達は、たまに帰省すると「しゃあああああっ」って威嚇してきます。
どうやら、我が家のヒエラルキーでは、私は最下段の様です。
ほのぼのした気持ちに喜びを覚えながら、車に乗り込みます。
途中、見かけた道の駅に寄りながら帰ったのと渋滞に巻き込まれた関係で、アパートに帰り着いたのは夜の八時頃でした。
でも、不思議なんです。
かなり朝早く出発したにも拘らず、全く疲れていないばかりか、少しも眠くないんです。
このまま徹夜しても全然平気っぽい感じでした。
その日の夜、私は昼間撮影した画像の確認をしていました。
奥宮参拝後の空で見かけた黒龍神の様な龍雲も、しっかり映っていました。
画像も終盤に差し掛かった時、そのうちの一枚に私の眼は釘付けになりました。
昼食をとった後、山々の風景を撮った一枚です。山だけでなく、空も写り込んでいたのですが、雲と雲の僅かな切れ目――小窓の様に開いた空間に、金色に輝く細長い雲が幾つも写っているんです。
今までに見た事の無い光景でした。
これって。
ひょっとして、金色の龍神様?
不思議に思い、会社の同僚にも見せたら、今までに見た事が無いとの返事。
私は確信しました。
間違いなく、これは・・・。
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