第77話 眼

 これは、つい最近私が体験したお話です。

 以前から気になっていた神社があり、何度か参拝する計画を立てたんですが、何故か急に仕事が入ったり、他の用事が出来たり、天気が悪くなったりと、ずっと行く機会を逃していました。

 後で知った話なのですが、この神社、神様に招かれないといけないそうです。

 と言う事は、今までご縁が無かったって事なのでしょう。 

 ですが、とうとうやってきました。

 参拝に来てよいとの許可が。

 先日まで降っていた雨が止んだので、天気予報を確かめると参拝予定日当日は晴れ。

 後は早起き出来るかどうかですが・・・起きれました。

 珍しく、アラームが鳴る前に目がぱっちりと開いたんです。

 今まで行けなかったパターンの中には、寝坊してってのが多々ありましたから。

 ここの神社、朝の八時には駐車場がいっぱいだとの情報をネットで掴んでいましたので、まず早起きできるか否かが一つの重要な焦点でした。

 朝の準備もスムーズに進み、予定通りの時間に出発。まだ薄暗いうちから車を走らせます。

 目的地まで、あと半分ぐらいの所まで来た時の事です。

 進行方向の空が、どんよりとした灰色の雲に覆われ始めました。

 天気予報が外れたか・・・。

 私は眉を顰めました。

 が、次の瞬間、その雲があり得ない形をしている事に気付きました。

 不思議な紡錘形の形の雲が連なっているのです。

 まるで、爬虫類の鱗の様な。

 そのうちの一つが、更に奇妙な形を成していました。 

 白い紡錘形の雲の中に、黒色の球状の雲が重なっているんです。

 其れは、明らかに目でした。

 巨大な眼が、私をじっと見据えている――そんな風にも見えました。

 私は近くのコンビニに車止め、気分転換に小休止しました。

 空を見上げましたが、そこからでは建物が邪魔をしていてよく見えません。

 コンビニでトイレをお借りし、ドリンクを買って車に乗り込み、後半戦スタートです。

 気が付けば、先程の雲は消えていました。

 不思議な事に、空には普通の薄い雲がかかっているだけでした。

 市街地を進んで行くうちに、次第に郊外へと道は私を誘い、気が付けば山道に差し掛かっていました。

 うねうねと続く山道を抜け、漸く目的地の神社近くの駐車場に到着。

 時刻はまだ八時ちょっと過ぎでしたが、駐車場はほぼ八割近く埋まっていました。

 車を駐車場に停めると、まずは本殿に参拝する前に奥宮を目指しました。

 参道は節くれだった無数の木の根が地表を這っているものの、整備されており、歩きやすいです。

 奥宮に到着。参拝を済ませた後、私は山頂からの風景を楽しみました。

 と、其の時です。

 空に、変った雲を見つけたんです。

 白くたなびく雲の間を黒い雲がうねる様に泳いでいるんです。

 黒龍神様でした。

 間違いなく。

 顔も口も何となくそう思う様な形状を成していました。

 この時になって、私は気付きました。

 道中の空に現れた鱗状のものと、巨大な眼・・・。

 ひょっとしたら、

 あれは、黒龍・・・。

 間違いない。

 黒龍神が、私の魂が参拝に相応しいかどうかを見極めていたのだ――私は、そう確信しました。


 

 

 


 

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