第111話 見えた?

 先日、息子と一緒に関東の某県にある神社を参拝してきました。

 この神社は、奥宮に向かう参道が登山道の様になっており、山登り――と言っても、里山クラスの――が好きな私にとって、絶好のシチュエーションなのです。 

 おまけに、有名なパワースポットでもあります。

 そんな訳で、私はしょっちゅう参拝しているのですが、息子は久し振りの参拝と言う事で、彼に一つ提案をしました。

 一心不乱で登るのはやめて、神気を楽しみながらゆっくり登らないかと。

 以前の私は只管登る事に専念し、其れこそ脇目も触れずガンガンと登山道を突き進み、前を歩く参拝客をぐいぐい抜きまくっていたのですが、前回参拝した時から、それを改めようと思ったんです。

「ゼロ地場」としても有名な神社なのですから、神気をゆっくりと全身に浴び、大地のパワーを頂きながら登ることにしたんですよ。

「ゼロ地場」と言っても、磁場がゼロになっている訳じゃないです。

 地球の二つの地場――N極とS極が互いにぶつかり合って拮抗し、力を打ち消し合っている場所だそうです。でも、ゼロとは言いながらも、二つの磁力のパワーが存在する場所なのです。

 実を言いますと、ここの神社が「ゼロ地場」である事、最近になって知ったんです。

 お恥ずかしい話なのですが、今までに何回も参拝しているにもかかわらず、です。

 その日もいつも通り、まずは一の鳥居近くにある祓戸神社に参拝した後、途中の御社や祠に挨拶をしながら拝殿に向かいます。

 拝殿で日々のお礼と誓いを奉じた後、其の裏手にある八大龍王様と不動明王様の祠に向かいました。

 まず息子が先に御参りを。私は彼の斜め後ろで待機しつつ、その間に不動明王様の御真言を奉じました。

 彼が参拝を終えた後、私は八大竜王様の祠の前に立ち、御真言を奉じて日々の感謝をお伝えしました。

 すると、背後に人の気配。他の参拝者がこられたようです。

 慌てて不動明王様への参拝を済ませると、お待ちになっている参拝者に一礼し、私達は奥宮への表参道に向かいました。

「さっき、御参りしている時、風、吹いたよね」

「本当? 」

 息子の言葉に、私は驚きの声を上げました。

 彼の話では、願い事を祈願している時、背後から風が吹いて来たとの事。私は彼の斜め後ろにいたのですが、感じなかったんです。

「じゃあ、願いが届いたってことだね。良かったじゃない」

 彼にそう言うと、嬉しそうに笑っていました。

 参道を、いつもよりゆっくりとしたペースで進んで行きます。

 不思議ですよね。がつがつ登っていた時よりも、山の神気がしっとりと体に浸透していくような気がします。

 途中、しめ縄の巻かれた二股の大杉の前で歩みを止め、二礼二拍一礼の御挨拶。

 以前は通り過ぎていたんですが、最近気になってお参りするようになったんです。

 私は一礼後、顔を上げるとじっと大杉を見つめました。

 何か、いつもと違うんです。

 いつもの清廉された気とは違う、熱い気のようなものを感じるんです。

「お父さんにも見えた? 」

 不意に、息子がそう声を掛けてきました。

「見えたって、何が? 何か熱い気みたいのは感じたけど・・・」

「巫女さんや神主さんみたいな白装束を着た人が、木の間にいたよね? 」

「え? 俺には見えなかった。どこ? 」

「写真撮ってみてよ」

「分かった」

 私は御神木に一礼すると、携帯で写真を続けざま何枚か撮影しました。

「気の左の方」

「こっち? 」

「もっと左」

 息子の指示に従い、写真を撮り続けました。

 彼曰く、私が携帯を向けた時には、其の白装束の方は別の木の間に移っていたそうです。彼の指示で慌てて別方向も撮影したのですが、写っていないかもです。

「何だったんだろうね」

 息子が不思議そうな表情で御神木を見つめています。

「天狗様かもしれないよ。ここって、天狗伝説もあるから」

 これは、あくまでも私の推測ですが。

「成程ね」

 息子は早速ネットで検索した様で、携帯を見ながら頷いていました。

 自宅に帰ってから画像を調べたのですが、何も写ってはいませんでした。

 画角から逃れたのは、写すな! と言う事だったのでしょうから。

 やっぱり、息子と私が揃うと、何かが起こるみたいですね。

 実は、この日に体験した不思議な出来事は、これだけじゃなかったんです。

 




 





 




 

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