第97話 とことこ
これは、私が子供の頃のお話です。
今思えば、あれは現実だったのか、それとも夢だったのか・・・なんともはっきりしないのですが、迎え盆の時にふと思い出しましたので書き綴ってみようと思います。
当時、私は幼稚園に通っていた頃、よく一緒に遊んでいた男の子がいました。彼の家にはお姉さんもいたんですが、彼女とは余り一緒に遊ばなかったですね。
お互いの家を行き来して遊んでいたんですが、あれは、私が彼の家に遊びに行った日の事でした。
時期は丁度お盆前。
虫取りが大好きな野生児だった私ですが、この時期は流石に控えていました。当時、健在だった祖父母に、お盆の時期は生き物を捕まえてはいけないと強く言われていましたので。
特に理由は教えてくれなかったのですが、幼かった私は素直に祖父母の言いつけを守っていました。
後で知ったのですが、お盆になったら、亡くなった方が蝶に姿を変えて帰って来ると言う話があるそうです。どこの地方だったか忘れましたが。
これに近い逸話を、祖父母は知っていたのかもしれません。
それ故に、その日は外には出ないで、友達の家の中で遊んでいたのだと思います。
友達の家に上がると、居間で彼の母親が何かを創っていました。
見ると、茄子に短く切った割りばしを四本刺しているんです。
テーブルの上に置くと、茄子に手足が生えた感じ。
「お盆になったら、ご先祖様がこれに乗って天国からこちらの世界に帰って来るの」
私が不思議そうに手足の生えた茄子を見つめていると、友達の母親がそう説明してくれました。
と、其の時です。
茄子が動き始めたんです。
割りばしで出来た手足を、ぎこちなく交互に動かして。
「ほら、ね」
友達の母親は、嬉しそうに茄子を見つめています。
私は驚いたものの、友達も、たまたまそばにいた彼の姉も、全く驚いた素振を見せないものですから、幼心にこういうものなのだとその時は素直に理解したんです。
家に帰ってから、母にこの事を伝えると、そんな事ある訳ないと一笑されてしましました。
でも、あの時、確かに茄子は歩いたんですよ。
其の時、友達とどんな遊びをしたのかは覚えてはいませんでしたが、その光景だけは、はっきりと記憶のネガに焼き付いています。
その友達は後に引っ越してしまい、連絡も取っていないので、残念ながら審議の程は確認出来ないんです。
でも、今思えば、そんな事あり得ないですよね。
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