第134話 窓から覗く者

 これは、ついさっき息子から聞いたお話です。

 先日、息子は職場で来客の方と談笑をしていたそうです。

 その部屋は片面が窓に面しており、昼間は結構明るいのだとか。

 二人は窓の近くの席で、世間話を交えながら仕事の打ち合わせをしていました。

「あれ、あそこの窓・・・」

 来客が怪訝そうに一番端の窓の一角を指差します。

「どうしたんですか? 」

 息子が来客にそう問い掛けました。

「いや、ここの窓、いつも綺麗にされているんだけど、あそこだけやけに黒く汚れているなって思って」

 息子は来客が示す方向に目を向けました。

「え、そうですか? ・・・掃除のやり残しですかね。有難うございます。後で担当の者に伝えておきます」

 息子はそう答えると、来客の関心を半ば強引にそれまでの話の続きに引き戻しました。

 息子には見えていたんです。

 それが、決して汚れではない事を。

 来客が見たもの――それは、人の顔でした。

 作業服を着た男が、窓に張り付き、じっと室内の中を窺っていたのです。

 当日、清掃業者による窓清掃の予定は無く、当然の事ながら、ゴンドラも無い訳です。

 一階なら、清掃業者を入れなくても窓拭きは出来るかもですが、ここは六階。

 ゴンドラ無しでは危険を伴うので、作業不可能です。 

 つまり、そうなんです。

 当然、霊感スペックのある息子には分かっていました。それが、この世の者ではない事を。

 彼は其れに気付いていない振りを演じながら来客との対話を続けました。

 漸く来客との打ち合わせが終わり、退室する際にちらりと窓に目線を向けると、もうそこには誰もいませんでした。

 それに、窓に汚れらしきものもあらず。

 幸いにも、来客はそれ以上窓の件には触れる事はありませんでした。

 取り敢えず自分にも憑りついていない様だったので、彼はほっとしたそうです。

 ひょっとしたら、ですが。

 この来客の方も霊感がおありなんでしょうね。結局、窓に汚れなんか無かったわけですから。

 ただ、息子程の精度が無かったので、その方には汚れの様にでしか察知できなかったのでしょう。

 同じ「もの」を見ても、息子と私では感じ方が違うのと同じなのでしょうね。

 その後、彼はその窓で男を見ることは無かったそうです。

 恐らくは浮遊霊の類なんでしょうね。

 同日、彼は仕事場でまた別の怪異に遭遇しています。

 それはまた、別の機会にお伝えできればと思います。

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