第131話 この仔は、五年後に・・・
これは、私が小学生の時に体験したお話です。
当時、私はキジトラの雄猫と暮らしていました。
当時はまだ飼い猫の避妊手術が今みたいに定着していなかったのでしょう。飼い猫が子猫を生んだので、誰か貰ってくれないかと声を掛けて来る方がたまにいました。
この猫も、近所で飼われている猫が子供を産んだので、引き取り手を探していたんです。
私は以前にも家に住み着いた野良猫を飼っていたんですが――この猫は三毛の雌でした――病気で死んでしまい、しばらく寂しい想いをしていたんです。
両親の了承をとって我が家にお迎えする事になった時は、
猫のトイレとか、一通り必需品を用意して、やっと待ちに待ったお出迎えの日。
近所の家に行くと、おばさんが子猫を紙袋に入れて手渡してくれました。
家までの道中、仔猫は不安気にか細い声で鳴いていましたが、家に着いてミルクを少し与えたらすぐに落ち着きました。
仔猫は、私が抱きかかえると、嬉しそうに目を細めて喉をごろごろ鳴らしました。
「この仔は、五年は生きそうだな」
其の時、私は何故かそう呟いてしまったのです。
何の理由も根拠も無く。
そして、五年後――愛猫は他界しました。
その頃は室内飼いがまだ浸透しておらず、我が家の猫は自由に外の世界を闊歩していました。ちょうど盛りの時期だったので、何日も家に戻ってきていなかったんですが、いつもの事だと思っていました。勿論、心配してはいましたが。
ところがある日、学校から帰って来ると、母が沈痛な面持ちで私を呼びました。
飼っていた猫は、同じ町内の家の軒下で死んでいたそうです。亡骸は、その家の方がどこの家の飼い猫か分からなかった為――鈴は付けていましたが、ネームのタグは付けていませんでした――海岸の砂浜に埋めてきた事でした。
その家の方の話では、恐らく殺鼠剤を食べて弱った鼠を捕まえ、食べたのだろうとの事でした。
どうやら、母も猫の事が心配で、近所の方に話していたようです。その話がどうやらその方に伝わって、連絡下さったようでした。
私はショックの余り、ただ茫然と立ち竦んでいました。
信じられませんでした。
確かに、よく鳩を捕まえては家に持ってきたことがありました。でも、結構用心深い猫だったんです。
殺鼠剤にやられた動きのおかしい鼠に、何の警戒もせずに襲いかかるものなのか。
盛りの最中で、本能が理性を凌駕していたからなのか。
でも。
せめて、最後のお別れをしたかった・・・。
涙が、止まりませんでした。
甘えてすり寄って来る愛らしい姿を、もう二度と見る事は出来ないのですから。
其の時。
私は思い出しました。
あの時、呟いてしまった、あの一言を。
だから、愛猫は五年でその一生を終えたのか・・・。
まさか、提示された運命に従う為に・・・。
これは、ある方から後で聞いた話なのですが、猫の前で寿命の話をしてはいけないらしいです。
「~年は生きるだろう」とか、そう言う話を猫の前ですると、其の時が訪れると共に、姿を消し、冥土へと旅立ってしまうそうです。
今回のお話のように。
私の家には、三匹の猫が一緒に生活しています。
私は、彼らの前で、こういったお話は一切していません。
話したりするものですか。
絶対に。
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