第132話 診察
これは、私の記憶にまつわる不思議なお話です。
私は子供の頃、気管支が弱く、よく風邪を引いたり熱を出したりしていました。
特に幼児の頃は、それに加えて鼠径ヘルニアでしたので、痛さに耐え切れずに昼夜かまわず泣き出しては病院のお世話になっていました。
幸いにも、当時、お向かいの家が病院でしたので、そちらの先生には大変お世話になったそうです。病院と言うより、診療所と言った方がしっくりくるかもです。
「たぶん、あなたは覚えていないでしょうけど、大変だったんだから」
母は、遠くを見るような目で、懐かしそうにそう話してくれました。
それに、私が物心ついた時にはもう診療所はなかったですから。
でも、私は覚えているんです。
自分が、お医者さんに診察していただいているところを。
但し全部覚えているのではなく、ほんのワンシーンのみなのですが。
黄色い電球の光。
ベッドの上で手足を動かしながらぐずる私。
初老の男性医師が、私の肌着とおむつを脱がし、身体の触診を始める。
私が覚えているのは、ここまでだけなんです。
でも、ちょっと妙なのは。
私は、そのシーンを上空から見下ろしていたんです。
あり得ないですよね。
でも何故か、そのシーンだけがリアルな映像となって、私の脳裏に幼い頃の記憶として張り付いているんです。
残念ながら、幼い頃の――最も小さかった頃の記憶はそれだけです。
胎児の頃の記憶もありませんし。
でも、そうなると、ここまで書いて来て何となく確信が揺らいできます。
ひょっとしたら、母から聞いた言葉から得た印象から、脳内で勝手に作り上げた記憶なのかも知れません。
人の脳って、後付けの情報を実際の体験に色付けしてしまう事があるそうで。
ただ、私を病院に連れて行ったのは、決まって夜だったらしいんですよ。
記憶の中の背景は、黄色い電灯に照らされた診察室。
何となくそこは符合する気がするのですが、納得するには乏しいかもですね。
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