第116話 ひっぱられた!

 そうそう、忘れてました。まだありました。息子と参拝した某神社での不思議な出来事が。

 あの時は、大したことではないかなって思っていたんですが、冷静に考えるとあれもやっぱり不思議な出来事でした。

 それも、参拝し始めてから早々に起きていたんです。

 大きな鳥居をくぐり、参道を進みますと、左手の脇に、小さな鳥居が見えてきます。

 この鳥居をくぐりますと断崖絶壁に道がつけられています。そのたもとに、御稲荷様の小さな御社があり、傾斜のきつい道を上る途中に小さな祠がいくつかあります。 

 その道を更に上り詰めた頂上に、こじんまりした真新しい御社があるんです。

 この、御稲荷様、以前は別の場所にあったような気がするんですね。今までお参りした事は無かったんですが、先回訪れた時から、何故か気になってお参りするようになりました。

「あそこの御稲荷さんだけど、この前来た時から御参りしてるんよ」

 息子にそう説明しながら、私はその御社に近付いたんです。

 其の時でした。

 ぐいっと体ごと引っ張られたんです。

 その、御稲荷様の方に。

「呼ばれたんだね」

 息子は感心した面持ちで御稲荷様を見ています。

「ああ、今も引っ張られた」

 私はふらつきながらも体勢を整えると、御稲荷様の前に立ち、参拝しました。

 その後、他の御社を参拝し、途中不思議な事にいくつか出くわすのですが、それについては以前、個々に詳しくお話に仕立てていますので、ここでは割愛します。

 さて、これにはまだ続きがあります。続きと言っても、御稲荷様に関わるお話ではないのですが。

 奥宮に向かう途中、息子が後で寄りたい所があると言うのです。

 其れは、途中にあった祠らしいのですが。

 山頂の祠での参拝を終え、裏参道でも途中の御社に参拝した後、私達は拝殿のそばまで戻ってきました。

 「じゃあ、ちょっと寄りたい所があるから」

 そう言って彼が向かったのは、最初の方でお参りした、あの御稲荷様の方でした。

 ただ彼は、御稲荷様の前を過ぎると、少し坂の小径を上がった所にある小さな祠に御参りし始めました。

 小さな祠は二つあり、彼が御参りしたのは、そのうちの一方でした。

 彼に倣って私もお参りしたのですが、ふと、思い出した事がありました。

 以前、二十代位の女性の参拝客が、この祠の前で一心不乱に祈りを捧げていたのを。

 彼女もこの祠を参拝すると、すぐそばの祠には参拝せず、そのまま引き上げて行きました。恐らくは拝殿に向かったとは思うのですが。

 彼女が去った後に私もお参りしたのですが、それっきり御参りはしていませんでした。

 息子には、何故その祠に御参り相と思ったのか聞いたところ、「何となく気になった」そうです。

 彼は、恐らくこの祠にお祀りされている神様に呼ばれたのでしょう。

 ひょっとしたら、前に見た女性の参拝客も。

 

 

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