第45話 お疲れ様・・・
これは、私が昔体験した話です。某地方都市の事業所にいた私は、工場内の一室で事務仕事をしていました。
部屋には、私以外に後輩の男性社員が一人。
時刻は確か夜の八時を過ぎた頃だったと思います。
その日は昼間、別件の業務で時間を取られてしまった為、普段は日中に済ませていたルーティンワークの書類チェックを大急ぎでやっていました。
今の時代はペーパーレスとかデータのクラウド管理が一般的になっていますが、当時はまだ紙ベースの記録に頼るのがほとんどでした。
時計と書類の山を交互に見ながらの作業。家では家族が私の帰りを待っていますから、少しでも早く終わらせたい所です。
その時、不意に部屋のドアが開きました。
白い作業服を着た中年の女性の従業員が、満面に笑みを浮かべながら部屋に入ってきます。身長がドアノブより少々高い位の、小柄な方でした。
当時、夜勤者はほぼ男性従業員でしたから、恐らくは日勤の方だと思います。
ちょうど繁忙期でしたから、遅くまでの残って作業をされていたのでしょう。
お疲れ様――そう声を掛けようとした刹那。
彼女は忽然と私の視界から消え失せました。
私は驚き、少し離れた所でパソコンに向かっている後輩を見ましたが、彼はこの事態に気付いていないようでした。
よくよく考えれば、おかしな点がいくつかありました。
私は今まで、その女性従業員を見た事が無いんです。
大きな事業所でしたから、従業員も何百人かいましたけど、顔は見れば分かります。
それに、容姿がちょっと気になりました。目が左右に異様に離れており、入室してきた時も、見るからに焦点が合っていない様に見えました。
それと、肌が異様に白かった。
極めつけは作業帽。彼女が被っていたのはかなり前の物で、今の従業員は誰一人と被っていないのです。
昔、この事業所で働いていた方なのでしょうか。
創立してから数十年は経つ事業所でしたから、初期の頃に勤務されていた方なのかもしれません。
表情がとても明るく、にこやかでしたので、ここでの仕事がやりがいがあり、楽しかったのでしょう。
繁忙期と言う事で、お手伝いに来て下さったのでしょうか。
それとも、遅くまで残って仕事をしている私達に、労を労いに来られたのでしょうか。
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