第44話 隣の・・・

 これは、数年前に私が体験したお話です。

 当時、私は関東地方の某所にある事業所に勤務していました。

 あれは確か、私の異動が決まり、日々残務整理に明け暮れていた時の事でした。

 単身生活に終わりを告げ、家に帰れることになったのです。

 アパートの荷物の片付けもしなければならないのですが、まずは仕事の方を片付けない事には先に進みません。

 通常業務に加え、引継ぎの資料を作成したり、現在進行中の業務を早々に仕上げたりと、残された時間が少ない中、作業が深夜に及ぶ日々が続いていました。

 その日の深夜、私は事務所のそばの別室でパソコンに向かい、資料の作成に勤しんでしました。

 私の席は事務所の方に別にあったのですが、この部屋まで資料のファイルを取り行き来するのが面倒でしたので、こちらの部屋を陣取って作業していたのです。

 不意に、背後を人が通る気配。

 私の左目の視界の端に、人影がちらりと映る。

 深夜零時過ぎ。この時間にスタッフはいないし、部屋にいるのも私だけのはず。

 振り向いたけど、誰もいない。

 そう言えば、普段ここで作業している女性スタッフが、昼間でもバキッとかミシッとかラップ音がする時があると言っていたのを思い出しました。

 そうか、この部屋も・・・。

 ここの事業所、現場やトイレで悪戯好きの霊ちゃんが出るのは知っていました。本人? に悪意はなく、その存在を多くの従業員が認めており、良い意味で共存が成り立っている様な所でした(この話は、別の回で触れていますので割愛しますね)。

 まあ、出てもおかしくない環境ではあります。

 私はそれ以上詮索せず、業務に取り組みました。

 しばらくして、今度は右側に人の気配。

 私の右目の視界のギリ端に、白衣姿の人影が。

 男性か女性かは分かりません。

 ただ席について、何かをしている。

 驚いてそちらを見る。

 いない。

 消えてしまった・・・。

 私は呆然としました。

 でも。

 特にぞくりともせず、怖いとも思いませんでした。 

 どちらかと言うと、果てしなく終わりの見えない業務の方が怖い・・・。

 結局、私はその後も気にせず仕事を続けました。

 翌日、私は昨夜の出来事を同僚の女性スタッフに話しました。彼女は霊感があり、いわゆる「見える人」なのです。

「はははは、一緒に仕事してたんだ。それはね、普段誰もいないのに遅くまで残って仕事してたから、興味があったんじゃない? 面白がって仕事のまねっこをしてたんだよ」

 彼女は、げらげら笑いながらそう教えてくれました。

「怖くは無かったでしょ? 」

「うん、それは無かった」

「だったらそうだよ」

 彼女の答えに、私は少し安堵を覚えました。

 ひょっとしたら、深夜まで仕事をしている私を心配して、お手伝いに来てくれたのかもしれません。

 

 

 

 

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