第46話 予知夢
これは、私が小学生の時に体験したお話です。
当時、私は釣りが好きで、休みの日になると父にせがんで近くの海に連れてもらっていました。
親戚にも釣り好きな叔父がおり、年に一回程、釣行に誘ってもらう事がありました。
その日は、船でシロギス釣りに行くから来ないかと誘って頂いたので、父と喜んで参加しました。
日の出前に叔父の家を車で出発し、途中、車の中で朝ご飯を食べながら、目的地に到着。
船は、相乗り戦ではなく、小さな釣り船を一隻チャーターしての釣りでした。
初めての船釣りに心躍らせながら挑んだ私したが、案の定、船酔いでダウン。
元々乗り物酔いしやすい体質でしたから、車に乗る前に酔い止めを飲んできたにもかかわらず、体は早くも白旗を振る事態になってしまいました。
最初は大丈夫だった父も、そのうちダウン。これでは釣りにならないとの事で、近くの磯浜に卸してもらう事のなりました。
磯浜は小さな岩礁と砂利で出来ており、普段、砂浜の海岸しか見ていない私には新鮮な風景でした。
船を下りた途端、船酔いはすぐに解消されたので、私達はそこで釣りを再開しました。
その時、私はある事に気付きました。
何とも言えない腐敗臭がするのです。
経験上、それが魚の腐った臭いだと気付きました。海に釣りに行くと、目的の魚以外の獲物――外道と言います――を防波堤に捨てていく心無い者がいるのです。クサフグとか、持ち帰っても食べれない代物ですが、また海に逃がしてあげればいいものを。
そう言った光景を見ると、心を痛めます。
でも、その日の腐敗臭の正体は、パターンがちょっと違ったようです。
臭いの正体を見極めようと、その方向に向かいました。
波打ち際です。
正体はすぐに分かりました。
数匹の腐乱したハマチの死骸が波打ち際に打ち上げられていました。少し離れた海上に、ハマチの養殖生簀が幾つかありましたから、そこで死んだ魚を養殖業者が海へ投棄したものの様でした。本来なら、回収してそれなりの処分をしなければならないのですが、時代的にまだその面が大らかだったのだと思います。
当時、釣り人や観光客が塵を捨てるから海が汚れると言われることがありましたが、そればかりじゃないです。地元の方が自分で自分の首を絞めている一例です。
これは余談ですが、社会人になって、某離島に遊びに行った時、海を見ようと、泊まっていた民宿の裏に行ったんですよ。民宿の裏はすぐ海でしたから、ちょうど夕闇迫る時間帯でしたので、趣があるんじゃないかと思ったんですよね。
裏に回ると堤防があり、その向こうは磯浜になっていたと思います。残念な事に、堤防の下は貝殻やらその他の塵が山になっていました。
潮の関係でここに塵が集まって来るのか・・・民宿経営者にとっちゃとんでもないいい迷惑です。
気分を害した私が場所を変えようとした時です。民宿から従業員のおばさんが塵箱を抱えて出て来たんです。
「ここは塵だらけだから、景色は良くないですよう」
おばさんはにこやかにそう言いながら、手にしていた塵箱の中身を浜にぶちまけたんです。
貝殻やらよく分からないものが、ガラガラと音を立てて浜に山を築いていました。
私は苦笑を浮かべながら、其の場を立ち去りました。
海を汚していたの、実は民宿だったんです。
まあ、たまたまその一軒だけだったのかもしれませんが。それにしても酷いお話です。
と言っても、もう三十年以上前のお話ですし、あれから状況も変わっていますから、今はそんな事は無いかと思います。島の一部は世界遺産にも登録されていますし。
ごめんなさい。話を元に戻します。
砂利で出来た浜と腐敗臭――この二つのキーワードが、私にある記憶を蘇られたんです。
私は浜を歩き回り、あるものを探しました。
ここにきっとある――そんな確信めいたものが、私にははっきり感じ取られました。
ありました。
波打ち際から少し理来よりの所に、それは打ち上げられていました。
ミルという海藻です。
わかめとか昆布とかいった馴染みのある海藻とは全く異なり、緑色で、木の枝の様に細かく枝分かれし、肉厚のぶよぶよした本体が特徴です。因みに表面はざらざら。
食用可能らしいのですが、私は食べた事がありません。
腐敗臭のする砂利浜にうち上げられたミル――これ、一週間前に夢で体験しているんです。
砂利浜に打ち上げられたミルが、四角く切り取られた静止画像となって夢に出て来たんです。それ以外の背景は白く塗りつぶされていました。
同時に感じた腐敗臭。それは、魚が腐敗時に発する独特のものでした。
次に現れたのは、家のキッチンに飾られたカレンダー。
そこには、叔父に誘われて釣りに行く予定日が書き込まれていたんです。
夢はよく見る方なんですが、このようなメッセージ性の高いものは初めてでしたので気になっていたのです。
まさに、「予知夢」。
ただ、何か危険を察してのって訳じゃありませんので、大したものではありませんが。
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