第34話 祭囃子

 これは、妻と息子から聞いた話です。

 息子が高校生の頃、学校の授業終わりに塾に通っていました。

 帰りがかなり遅くなる時は、時折妻や私が塾まで迎えに行く事がありました。

 その日は妻が息子を迎えに行く事になっており、塾が終わった彼が、妻に電話を掛けたそうです。

 妻が電話に出た時、彼は電話越しに賑やかなが音が聞こえて来るのに気付きました。

 太鼓や笛の音――祭囃子です。

 今日、お祭りなんてあっただろうか。

 息子は不思議に思ったそうです。

 迎えに来た妻にその事を話すと、彼女は首を傾げました。

 妻には、祭囃子なんて聞こえていなかったそうです。

 ましてや、その日にお祭りなんかないですし。

 この話を聞いた時、私はぞっとしました。

 以前、SNSか何かで聞いた事があったんです。

 お祭りなんかやっていないのに祭囃子が聞こえるのは、何者かが連れて行こうとしているのだと。

 何処に連れて行くのか。

 それは、あの世らしいです。

 詳しくは分かりませんが、そういった話を過去に聞いた事があったんです。

 その正体は何なのかは分からないのですが。

「じゃあ、〇○が危なかったの? 」

 妻は息子を心配そうに見ました。

「違うよ。多分、君の方だよ」

 私は妻にそう答えました。

 息子の話では、電話での妻との会話の時に、彼女の背後から聞こえたらしいのですから。

 息子からの電話で、妻がその場を離れたから、連れて行かれえずに済んだのだ。

 そう、その時はそう思っていました。

 でも。

 今になって思えば、そうじゃなかったような気がします。

 何故って?

 祭囃子が聞こえていたの、息子だけですから。

 実は、それは妻の電話から聞こえていたのではなく、彼自身のそばで聞こえていたのではなかったのか。

 妻が迎えに行った事により、彼は連れていかれずに済んだのではないのか。

 たぶん、そうだと思います。

 息子に尋ねると、その後は特に祭囃子を聞く事は無かったそうなので、得体の知れぬ何者かも、彼を連れて行くのを断念したのだろうと思います。

 困った事に、その話を聞いてから、何となく祭囃子が怖いのです。

 例え、本当にお祭りのある日だと分かっていても。

 でも。

 何故、祭囃子なんでしょうか。

 ひょっとしたら。

 賑やかな音色でターゲットを誘い出すためのトラップの様なものなのかも・・・。


 

 

 

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