第33話 黒い手
これは、私の息子から聞いた話です。
息子が高校生の時、一時期よく見たものがあったそうです。
それは、黒い手。
電子レンジの硝子の部分や、鏡越しに、其れは見えたらしいのですが、振り返るとそこには何もない。
ただ、本人はと言うと、さほど気にしていなかったそうです。
また黒い手が見えたくらいの、軽い気持ちだったらしいんですね。
私なら、恐怖のあまりに、声にならない叫びを上げながらその場に立ち竦んでしまうかもしれません。
あの有名な絵画の様な格好で。
ある日、彼が食卓を囲む椅子に座っていた時の事です。
レンジ台のある食器棚の前のが彼の定位置。右手には腰高くらいの位置に窓があり、カーテンがひかれていました。
不意に、彼は窓の辺りに妙な存在を感じました。
視線の端に、あってはならないものが写ったんです。
驚いて目で追うと、窓の枠に異様なものが。
黒い手でした。
今までは、硝子や鏡を通して間接的にその存在を目撃していたのですが、その時は眼の前にはっきりと現れたです。
(黒い手・・・こんな所まで出て来たのか)
これまた信じられないのですが、彼は全く動じることなく、あたかも日常茶飯事な光景であるかのように、冷静さを保ったまま、その黒い手と対峙していたんです。
やがて手は、彼の前から消え失せました。
息子が言うには、そばに神棚が祀ってあったから、黒い手はあれ以上家の中に入ってこれなかったとの事でした。
彼には、それが分かっていたから、さほど恐怖を感じなかったのかもしれません。
それに、彼が言うには、今までもそうですが、その時に目撃した黒い手からも悪意が感じられなかったそうです。
黒い手の正体は、一体何だったんでしょうか。
悪意が感じられなかったのであれば、悪霊の類ではなさそうです。
じゃあ、何?
警告?
それとも暗示?
黒と言う色から来るイメージのせいか、私には何かしら良くないもののような気がしてなりませんでした。
私は実際に目撃していないので、何とも言えないのです。
でも、敵意は無かったにせよ、はっきり言って不気味です。
息子曰く、この黒い手ですが、いつの間にか見なくなったのだそうです。
因みに、彼は、その後も特に事故や災難に巻き込まれた訳でもなく、無事過ごせておりました。
黒い手は、一体何を息子に伝えようとしていたのでしょうか。
実は、何かから彼を守っていた?
そうとは思えませんし・・・。
まあ、強いて言えば。
ある意味、黒い手よりも、その出現に全く動じていない息子の方が不気味かもです。
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