第92話 助手席にも?
これは、つい最近、私が体験したお話です。
仕事で山陽の方に行った帰りの事。台風接近に伴って、出張先で足止めを食い、翌日の午後の会議に間に合うよう、始発の新幹線にとびのっての行軍でした。
へろへろになって関東の某駅に辿り着いたのは昼の十二時。昼食を車中でとれば、午後一時からの会議には何とか間に合いそうです。
新幹線の到着時刻に合わせたのでしょう。タクシー乗り場に車が列をなしています。
がらがらとスーツケースっぽいバッグを引き摺り、その横の歩道を進みます。
重そうな荷物を持つ私に期待する運転手さんもいらっしゃるかもでしたが、私は客を待つタクシーを横目に、自分の車を停めている駐車場へと向かいます。
私が良く利用する駅は、周囲に有料駐車場があちらこちらに整備されていますので便利なんですよ。会社からは経費面でうるさく言われていますので、タクシーは近距離なら良いんですが、ちょっと遠方だと利用し辛いんですよね。
とは言え、利用するお客さんが多くいらっしゃるんでしょう。乗り場だけでなく待機場所にも多くのタクシーが待ち受けています。
タクシーが並ぶ横を非情? にも通り過ぎる私ですが、府と車列を見ると、一台不思議な車がありました。
男性の運転手さんの隣――助手席に、もう一人、白いワイシャツ姿の男性が乗っているんです。
ひょっとしたら、新人研修なのでしょうか。
タクシー業界の事は良く分からないので、単純にそうなのかもと思いました。
見た感じ、運転手さんより少し座高が高く、髪は黒々としています。
まだ後ろ姿しか見えてないので、何とも言えませんが、何となく運転手さんの方が年上に見えます。
仮に、運転手さんが新人だとしたら、前職をリタイヤして最就職されたのでしょうか。
ナビがあっても道に迷うメタクソ方向音痴の私からすれば、素直に凄いと思います。
そのタクシーを追い越す際に、私はちらりと目線を投げ掛けました。
運転手さんがどんな方なのか、指導の方も含めて気になったので。
いない。
いないんです。
助手席には、誰も乗っていない。
ついさっきまでは、確実に誰かがいたはずなのに。
それに、降車したのなら、位置的に必ずその姿は眼に留まるはず。
まずい。
私は素知らぬ振りを装い、その場からそそくさと立ち去りました。
駐車場の自分の車に乗り込み、深呼吸。
大丈夫。
憑いてきていないようです。
あれはいったい、なんだったのだろう。
悪寒も何もしなかったので、悪意のある存在ではなかったと思います。
客として、乗り込んだのか。
それとも、元々タクシーの運転手だった方が、亡くなっても尚、その仕事に従事しようとされているのか・・・でも、それなら運転席側に座るだろう。
わかりません。
その男の霊が、何をしたかったのか、皆目見当が付かない。
すっきりしない気持ちのまま、私は現実的に直面している課題をクリアすべく、車を駐車場から出しました。
一時からの会議に、何としてでも間に合わせる様に。
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