第91話 うつるはずがない

 これは、私が二回目の単身赴任になった年に、体験したお話です。

 単身赴任先と関東の某県と家を行き来するのに、私は車で移動しています。

 休憩しながらで数時間かかるのですが、電車と違って時間を気にすることなく移動できますし、途中のサービスエリアに寄るのも、ご当地の名物が色々見られますので楽しいんです。

 行きの移動はいつも夜。仕事が終わってからですので、どうしてもそうなります。

 ですから、家に着くのは深夜か早朝。但し、帰りは昼過ぎから夕方には出ますので、単身生活先に着くのは、夜の八時から十時くらいの間に到着出来ます。

 その日も、いつもの様に夜の移動で家路につきました。

 まず、気合? を入れる為に、出発前に最中アイス摂食の儀式を取り行います。

 アパートを出る前にシャワーを浴びて、いざ出発。

 眠くなるといけないので、食事は休憩時におにぎりかパンを少しずつ宇食べるようにしています。

 集中力が掛けない様、時折チョコレートで糖分摂取。

 これが、帰省時の私のルーティ―ンになっています。

 一時間に一回の休憩をはさみながら、漸く道程の半分をクリアーした頃でした。

 道路工事の為、車線規制。

 二車線が一車線になり、それに伴って速度も一般道並みに制限されます。

 私はアクセルを緩め、減速して一車線となった道を進みます。

 路肩の警告灯が夜の闇にどこまでも続いています。

 ここを過ぎれば、すぐにサービスエリアがある。

 そろそろまた休憩しようか――と、思った矢先。

 不意に、左目が何かを捉えました。

 フロントガラスの端。

 前を向いて座る、男の横顔と上半身の一部。

 警告灯の光を受けて、私の姿が写ったのか?

 違う。

 そんなはずがない。

 写るはずがないのだ。

 フロントガラスに。

 こちらに背を向けた、横向きの自分の姿なんて。

 其れも一瞬で消えてしまうなんて。

 よく考えれば、服装も違う。

 私は半袖のカットソー。

 フロントガラスに映った男の装束は、長袖っぽかった。

 明らかに、私じゃない。

 じゃあ、あれって・・・。

 

 

 

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