第90話 しめ縄が二つ?

 これは、数年前に私が体験したお話です。

 当時、私は二回目の単身赴任で関東の某県に引っ越したばかりでした。

 荷物の片付けが終わり、仕事も慣れてきた頃、私は休日になると身近にパワスポが無いかSNSで検索し、訪れる様になりました。

 その中でも、住まいから割と近い場所に気になった神社があり、足げく参拝していました。

 その神社は、住宅街の一角に鎮座しており、こじんまりとした感じなのですが、鳥居をくぐった途端、明らかに空気が変わるんです。

 荘厳と言うか、清廉と言うか・・・澄み切った空気に全身が包まれるような感じですね。

 境内の奥には、小さな滝があり、その周辺は特に澄んだ神気に満ちあふれており、私は訪れた際には、参拝客でこんでいない限り、参拝後にしばらく佇んで神気を頂いています。

 ここで、「神気の鎧」を装着。明日からまたがんばれるぞって感じになります。

 私が訪れたその日は平日でした。

 日曜日ですと、いつ何時行っても参拝客の姿がちらほら見受けられるのですが、その日は私一人だけの貸し切り状態。

 私は拝殿で日々に感謝を奉じ、手を合わせました。

 この後は銭洗いの滝に向かいます。

 滝と言っても、幅数十センチ程のかわいらしいこじんまりした人工の滝なんです。

 ここの滝の水でお金を洗って種銭にして財布に入れておけば、金運アップの御利益があるとの事。中には、お金だけではなく、宝くじ(数字を選ぶタイプの)の申込用紙を洗ってられる方もいらっしゃいます。

 私の場合はだいたい硬貨を洗っています。

 その日もお金を清めようと滝に近付いた時でした。

 私は思わず立ち止まり、滝を凝視しました。

 滝の流れ初めの所に、鳥居があり、そこにしめ縄が掛けてあるのですが、その日は更に鳥居の下の方にもしめ縄が掛かっていました。

 でも、よく見ると、何か違和感があります。

 分かりました。紙垂が付いていないんです。

 紙垂と言うのは、しめ縄についているぴらぴらした白い紙の事です。

 それに、よく見ると艶やかな光沢がある。

 ホースの様です。

 思い出しました。ここの滝、地下水をポンプで汲み上げているのです。

 だから、夜は止まっていて、朝八時頃から流れ始めるんです。

 ひょっとしたら、ポンプが壊れて水道水をホースで引っ張ってきているのかも。

 でもあの場所は、まずいんでないかな。鳥居の下ですし。

 と、思った時でした。

 白いホースがするすると動いたんですよ。

 ホースじゃなかった・・・。

 あれは、白蛇だ。

 其れもでかい!

 呆然と立ち竦んでいるうちに、その白蛇は滝の対岸へと消えて行きました。

 ここの神社の御祭神は弁天様。

 白蛇は、弁天様の使いと言われています。

 じゃあ、今の白蛇は・・・。

 私はパニックになり社務所へ向かいました。

 が、生憎誰もいません。

 私は高揚する気持ちを抑えきれず、車に戻ると近くの道の駅に向かいました。

 はっきり言って、何故こんな行動をしたのか自分でもよく分からないのです。

 道の駅で一息ついて、冷静になった後、再び神社の戻りました。もう一度滝を見に行きましたが、白蛇はいませんでした。

 再び社務所に向かいます。

 ちらりと人の姿が見えます。

 私と同年代とお見受けする女性が、にこやかに会釈されました。

「さっき、滝で白蛇を見たんです! 」

 私は挨拶もままならぬうちに、興奮した口調でさっき見た事をその女性に話しました。

「本当ですか? 良かったですね。大きかったですか? 」

 彼女は、にこにこしながら頷きました。

「はい、大きかったです」

「じゃあ、それはアオダイショウの方ですね。もう一匹小さいのもいて、そちらはヤマカガシなんです」

「え? 二匹もいるんですか? 」

「ええ。この前、巳の日に来られた女性の方は、滝を登っていく小さい方の白蛇を見て喜んでられましたよ。」

「ひょっとして、神社で飼ってられるんですか? 」

「いえいえ違いますよ。昔から棲んでいるんです」

 驚きでした。

 白蛇って、ただでさえ珍しいのに、それも二匹もいるなんて。しかも、自然と棲み付いているとは・・・。

「凄いですね・・・神様の使いですよね」

 私は思わず嘆息をつきました。

「そうですよ」

 女性は嬉しそうに頷きました。

 お話を伺いますと、彼女はこの神社の宮司さんの奥様だそうで、しかも歳が私と同じだと分かりました。

 ここの滝に水は、飲めば万病に効くとの御利益があるそうで、参拝に来られた方に頼まれて、水を汲みに行く事があるそうで、其の時にご対面する事があるそうです。

 因みに、臭いで分かるとか。生臭い臭いがするそうです。

 何となく現実味を帯びた生々しい情報を頂きました。

 その後、普通のアオダイショウらしき蛇を見かけた事はありましたが、白蛇様とは会ってはいません。

 またお会いしたいですね。

 因みに、私は巳年生まれですので、これも何かのご縁かと思っています。



 


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