第8話 三人が見たのは・・・

 土砂降りの雨の中を、私は慎重に車を進めていました。

 学校帰りに塾に通っている息子を迎えに行くためです。

 普段なら、自転車で自力で帰って来るのですが、流石にこの土砂降りの中は可哀そうなので迎えに行く事にしたんです。

 確か、時刻は夜の八時を過ぎていたと思います。

 通学路なので、私は特に注意を払いながら道を過ぎて行きます。夜の帳に加え、濡れた路面が街灯の光を乱反射し、視界を奪う為、帰宅途中の通行人の姿が見辛いのです。

 スーパーやコンビニが軒を連ねるにぎゃかな通りを過ぎ、住宅街へと車を進めます。

 十字路を右折。とすぐに踏切があり、その向こうに神社が見えます。

 踏切のすぐ横には三角形の土地があり、そこには元飲食店の店舗が土砂降りの中で沈黙を保っています。

 何が原因かよく分からないのですが、飲食店や雑貨屋が入っては閉店を繰り返し、今は管理人が倉庫代わり使っているようです。

 ここを通るたびに感じる妙な違和感。

 気のせいだとは思うのですが、何故か気持ちがぞわぞわするのです。

 踏切を渡り、すぐに左折。

 が、横断歩道に人影を認めた私は、ウインカーを出したまま停止しました。

 サラリーマン風の男性が、豪雨の中を傘もささずにレインコートだけで目の前を歩いて行きました。項垂れる様に頭を下げており、顔は見えません。

(あれじゃ全身びしょ濡れだろう。大変だな)

 彼に同情しつつ、その後ろ姿を眼で追いました。

 いない。

 いないんです。

 横断歩道を中程まで進んだ所で、彼の姿は忽然と消え失せたんです。

 (何だ、あれは・・・)

 途方に暮れる私でしたが、後続車もいましたので、そのまま車を進めました。

 その後、塾の前で息子を拾い、自転車を車に積み込みました(ワンボックスカーなので、ママチャリ一台くらいは楽々乗ります)。

 帰路についた私と息子は、学校の事や部活の事を話しながら車を進めました。

 やがて車は、私が行きに体験した不可思議な出来事が起きた場所に差し掛かります。

「実はさ・・・」

 俺は息子に、行きに目撃してしまった妙な出来事を語りました。

 息子は霊能力があり――と言っても、能動的に力を駆使できるのではなく、引き寄せ体質的な感じ――ひょっとしたら何か分かるかもと思ったんです。

 ところが、息子は妙な事を語ったんですよ。

「そこで下半身だけのサラリーマン風の霊が歩いているのを見たよ」

 マジか――初耳でした。

 彼が言うには、しばらくすると消えてしまったらしいのですが、線路を挟んで反対側の横断歩道を渡っていたそうです。

 家に帰ってから、妻にその話を聞かせて見ました。

 すると妻は、何かを思い出したかのように呟きました。

「私ね、同じ場所で上半身だけのサラリーマン風の霊を見た事がある」

 驚きの連続でした。

 私と妻と息子は、同じ場所で妙な何かを目撃しているんです。

 それも、三人が三人とも違う見え方をしているのですが、何となく同じ人物のように思えました。

 因みにこの踏切、過去に何かしらの事故があったようです。詳しくは分かりませんし、デマの可能性も拭いきれませんが。

 ただ目撃したのは、三人ともその一度だけで、その後は現れる事はありませんでした。

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