第55話 龍神様だ・・・
これは私が去年体験したお話です。
私は、時々関東の某県にある神社に参拝します。
この神社は山中にあり、拝殿から奥社、更にご神体のある山頂へと向かう道が整備されており、ちょっとした山登りも出来るので、運動不足解消にもなります。
なんせ有名なパワースポットでもありますので、スピリチュアル&アウトドア大好きおじさんの私にとっては、最高の聖地なんですね。
その日も拝殿をお参りした後、奥社への参道を進みました。
木の根が複雑に地表を這う参道はどちらかと言うと山道に近く、また、木々の生命力に満ちてエネルギッシュな空間を醸しています。
一歩一歩踏みしめながら登っていくと、目の前に石段が見えてきます。
その上に、奥社が鎮座しておられます。
木々の間にぽっかりと開けたその空間は、荘厳で清廉な気に満たされており、参拝後も、しばらくとどまってぼおっとしている事が多々あります。
その日も、奥社の前で神気を全身に浴びてくつろいだ後、山頂へと向かいました。
もう少しで山頂という所まで差し掛かった時の事です。
「あ、龍神様だ・・・龍神様がいるよっ! 」
突然、高揚した女性の声が前方から聞こえました。
私の少し前を歩く登山客。三十代位のショートヘアーの女性と、彼女の母親らしい高齢女性の二人連れです。
先程の声は、娘さんの様でした。
彼女は「見える人」なんだろうか。
特に「龍神様がいる」と言う台詞――気になる。
爆発的な増殖力で私の意識を支配する好奇心が、瞬時のうちに躊躇いと羞恥の意識を凌駕しました。
「あのう、すみません」
自分でも驚いたのですが、私はその女性に話し掛けていました。
突然話し掛けたものですから、彼女も驚いた顔で私を見つめています。
「急にに話し掛けて申し訳ありません。さっき龍神様がいるって聞いちゃったんですけど、失礼ですが見える方なんですか? 」
私の質問に、彼女は笑みを浮かべると首を横に振りまいた。
「見えません。けど、感じるんです。龍神様がいるって。今日もそうなんですけど、山を登りだしたら、自分達の周りだけ、雨がぱらぱらと振って来たり、風が吹いたり・・・」
「それと。ほら、あの葉っぱ」
彼女の母親が指差す方を見ると、風も無いのに、木の葉が一枚だけ激しく揺れています。
「ああやって、葉っぱが一枚だけ揺れている時って、龍神様がそばにいるんですよ」
彼女の母親は眼を細めながら私に優しい口振りでそう語り掛けて下さいました。
「不思議ですね・・・」
私は感慨深くその木の葉の動きを眼で追いました。
すると、其の葉は不意に動きを止めてしまいました。
「ああ、もう行ってしまったみたいね」
娘さんが名残惜しそうに呟きました。
「有難うございます」
私は二人にお辞儀をすると、山頂を目指し、先に進みました。
植物の葉が一枚だけ揺れる現象何ですが、実は科学的に証明されているらしいんです。
自励振動と呼ばれる現象で、風といった外的な力と葉の向きが何かしら関係して一枚だけがぶんぶん動く現象らしいです。
うーん、自分で書いてて分かった様な分からん様な・・・分からんです、はい。
でもですよ。
その、葉に特異的な力を加える風ってのは、どうやって吹くんでしょう。
その現象を間の辺りにした時も、特に風は吹いていませんでした。体感的には無風。
でも、科学的に証明――よしましょう。
私は、一枚だけ動く植物の葉よりも、そのような現象を及ぼす空気の動きそのものが神秘的な感じがするのです。
自励振動は、あくまでも一枚の葉だけが、単独で大きく揺れる現象そのものを示しています。
事実、その現象を引き起こす風がどう起こるのかのメカニズムは証明されていないです。
龍神様は、言わば自然エネルギーの象徴的存在のようなもの。
これこそが、全てを物語っている気がします。
私は、残りの道程を休まず一気に頂上まで登り切りました。
山頂に付くと、期待通りの爽快な風景が視界いっぱいに飛び込んできます。
私は一息つく間もなく、その足で山頂にあるご神体に参拝しました。
この時、私の前をバレーボールぐらいのオレンジ色の光の珠が、右から左へと御神体の前を横切ったんです。
確かこのことは、以前に息子とここを訪れた時のお話の中で、少し触れたことがあります。
その時の光なんですが。
えっ! と驚いている間に消えました。
ほんの一瞬の出来事でした。
私は周囲を見回したのですが、勿論、光を反射するようなものは無く、結局あれがなんだったのかはわからずじまいでした。
登山客が次から次へと登頂し、頂上が混雑して来たので、疑問符の回収が出来ないままに私は下山することにしました。
しばらく道を下った所で、視線の左端に何かが動くのを捉えました。
慌ててそちらに視線を向けると、すぐそばに生えているクマザサ(だったと思います)の葉が一枚だけ激しく揺れているのです。
「見てっ! あの葉っぱ。一枚だけ揺れてるよ」
下から登って来た登山客達が、不思議そうに揺れ動いている葉を凝視しています。
思わずにんまりする私でした。
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