第128話 今生の別れ

 これは、前回のお話「黄金の光」にも関わる、私の息子の体験談です。

 前回お話しました通り、その日、私と息子は懇意にさせて頂いている神社を参拝していました。

 参拝を終えた後、息子と昼食を取るために車を走らせます。

 彼にどこがいいか聞いた所、私の行きたい所でいいとの事。

 そこで、息子に以前打診した店の名前を上げると、そこでいいとの返事。

 私は不思議に思いました。

 そこのお店、彼の住まいとは反対方向にあり、家路につくには遠回りになるために、断りを入れて来た処だったんです。

 其の時は特に深く考えずに目的地に向かいました。

 でも、何となく息子の態度が気になる。

 何となく雰囲気がおかしいんです。

「実はさ・・・」

 私の気を察したのか、息子は重い口を開きました。

 主祭神の神様への参拝を済ませた後、分祠の他の祠を参拝した時、彼の脳裏にある映像が浮かんだそうです。

 お気に入りのチェックのシャツを着た私が、彼から立ち去って行く後ろ姿。

 そして、同時に浮かんだイメージ――それは、『今生の別れ』でした。

 今生の別れとは、何か。調べてみると、それは、背筋が凍るようなぞっとする語彙だったんです。簡単に申しますと、親しい間柄の人と死別するといったものでした。

「でもね、その後、隣の別の祠で手を合わせたら、心地良い風が吹いて来て、またお父さんと一緒に御参りに来ているイメージが浮かんだんだ。だから、大丈夫だよ・・・多分」

 息子が言うには、その前に参拝した祠で感じた映像に動揺しながら、次の祠にお参りしたそうです。そうしたら、背後から風が戦ぎ、明らか安堵の気が彼を包み込んだそうです。


 大丈夫だ。


 この時感じた神様からの返事に、彼はほっとしたそうです。

 まさに其の時だったんです。

 その祠の軒の辺りから黄金色の波状の光が隣の祠に流れたのを、私が目撃したのは。

 神々の間で、何かを取り計らって頂いたのでしょうか。

 その何かと言うのは、私もしくは息子のこれからの運命について。

 その日の参拝で、私自身、決して何か不安めいたものを暗示されたわけではありませんでした。

 むしろ、今までの中でこれ以上に無い程に、神々は私の思いと決意に耳を傾けて下さったような気がしました。

 よくよく調べてみると、『今生の別れ』が示す意味の中に、ただ単に家族との別れを現わす比喩的な感じの使い方がある事が分かりました。

 私は来期、単身赴任を解消され、漸く自宅に戻れる予定なのです。

 息子には以前、既にそう告げておりまして、ひょっとしたらそれがふと彼の脳裏に浮かんだだけなのかもしれません。

 そうであると良いんですが。

 まあ、大丈夫、でしょう。

 彼が神様から受け取った、不安を蹴散らす一言――それが救いになっています。

 でも。

 息子が、話の最後に呟いた『多分』が気にはなりますが。


 取り敢えず。

 もし、ここでのお話の更新が途絶えたら・・・。

 其の時は、私の身に何かが起きたと察していただければと思います。

 

 

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