第40話 翁の面
これは、息子から聞いたお話です。
彼は大学を卒業後、就職の為に学生時代のアパートを引き払い、引っ越すことになりました。
引っ越しには私も手伝いに行ったのですが、アパートは郊外の静かな住宅地にあり、築年数は経っているものの、内装は綺麗で住み心地のよさそうな部屋でした。
勿論、炎マークは付いて居ません。
息子はそのアパートがいたって気に入ったらしく、仲介していただいた不動産屋さんも誠実な方でしたので、内見したその場で即決。
息子も私も見る限りでは、スピリチュアル的にも問題無し。
もし出たとしても、今までのパターンだと、自分がどこからか連れて来るか、向こうが寄って来るかのどちらか。
こうなれば、どこに住んでも一緒って事ですかね。
息子には神社の御札を祀って結界を張っておくように話をしておきました。
ちなみに、私は神社の御札と龍の置物、そして魔除けの鏡を飾って部屋に結界を張ってから金縛りに遭わなくなりました。まあ、そうなると、必然的に怪談のネタが減ってしまった訳ですけど。
息子が新生活を始めて間もなく、彼から突然電話がかかってきました。
何事かと思って電話に出ると、息子が心配そうにな声で語り始めました。
翁の面が部屋に出た、と。
詳しく話を聞いてみますと、こんな感じでした。
アパートに居間でくつろいでいたら、妙な視線を感じた。
おかしいなと思って、感じた方向に目線を向けた。
壁側の押し入れ。
天井に近い襖の上部辺りに、妙なものが。
目を凝らしてみる。
面だ。
能で使う、髭を生やした翁の面。
目を細め、満面に笑みを湛えてこちらを見つめている。
あんな所にお面なんてあったっけ?
あるはずがない。
自分はそんなもの持って無かったし、内見や引っ越し時にもあちらこちら確認したけど、前入居者の残置物も残っていなかった。
何故?
首を傾げ乍ら、翁の面と対峙する。
刹那、その面は満面の笑みを浮かべなら、静かに視界からフェイドアウト。
消えた・・・。
呆然としたまま、襖を凝視。
あの面は何なのか。
疑問符が脳内無限増殖する。
ただ、満面の笑みだけが、残像となって彼の脳裏に焼き付いていた・・・。
この話を電話越しに聞いた時、私は即座に問い掛けました。
「翁の面は、笑っていたの? 」
「そうだよ」
「じゃあ、心配ないな。多分、その部屋の守り神だよ。お前の事を歓迎してくれてるんだな」
「そうなの? じゃあ心配ないね」
私の答えを聞いて、息子は安心したらしく、声のトーンも明るくなっていました。
彼は良い部屋を選んだようです。
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