第61話 大黒様?
これは、かなり昔に私が体験したお話です。
まだ子供が小さかった頃、夜、寝かしつけるのに私が添い寝する事がありました。
大体は妻が寝かしつけるのですが、洗濯が終わる前に子供が眠りそうになった時は、私の出番となります。と言っても、平日は私が仕事を終えて帰宅した時には、みんなもう既に寝ているので、休みの日の夜くらいですけど。
その日の夜も、妻が翌朝の支度や洗濯で忙しそうに動き回っていましたので、私は眠そうな息子を連れて二階の寝室に向かいました。
息子はなかなか寝付かず、ごろごろと寝がえりを繰り返していましたので、私もベッドに横たわったまま、じっと息子が眠りにつくのを待ちました。
息子に腕枕をしてあげると、漸く落ち着いたのか、彼は眠りにつきました。
ですが、これですぐにベッドから離れられる訳ではありません。今動けば、またすぐに目を覚ますでしょうから、私はグロー球の灯りに照らされた天井をぼんやりと見つめていました。
今はもうLEDに変わってしまっていますが、グロー球の柔らかな橙色の光は、味があって何となく温かみが感じられるんです。
私一人の場合ですと照明は全部消すのですが、子供と一緒に寝る時は暗くすると怖がるので、その日もグロー球は点けたままにしていました。
息子から、すうすうと静かな寝息が聞こえてきます。
漸く、寝付いたようです。
そっと腕を外して、起き上がろうとした――刹那。
天井いっぱいに人の輪郭が浮かび上がったんです。
胡坐をかいた恰幅のいい男性が、私と息子に微笑み掛けていました。
すぐそばに大きな袋を携えて。
私の意識を捉えたのは、恐怖ではなく驚愕でした。
この手の現象で在りがちな金縛りは起きず、悪寒も全く感じずです。
それどころか、その御姿から醸し出される柔らかな気は、とても温かく、優しさに満ちあふれていました。
その御姿は、透明で、輪郭だけしか見えません。
でも、誰なのかはすぐに分かりました。
大黒様です。
よく、縁起物の木彫りなんかでみる大黒様が、其のままの姿で天井近くに浮かんでおられるのです。
私が呆然と見上げていますと、大黒様はにこやかに微笑みながら消えて行きました。
何故、ここに?
私は驚きを隠せないまま、しばらく天井を見つめていました。
夢なんかじゃありません。
なんせ、これからベッドから起き上がろうとしていた矢先でしたから。
私はそっとベッドから起き上がると、階下で家事に勤しんでいる妻に、高揚した気持ちを押し殺しながらこの事実を伝えました。
この頃はまだ、仕事が非常に忙しく、今の時代では考えられない様な業務を強いられていたのに加え、家庭では部屋の中で物が動いたりデジカメで写真を撮るとオーブが写るといった不可解な現象が続き、何処か落ち着かない生活を送っていた時期でした。
言わば、公私共に私たち家族は負の要因に憑りつかれていたと言っても過言じゃありませんでした。
大黒様が現れたのは、もう心配しなくてもいいという暗示だったのかもしれません。
事実、この吉祥は、弱り切っていた私に希望を光を照らして下さいました。
負のスパイラルにはまっていた自分が、もっと前向きに生きて行こうとするプラス思考へと転じていったのも、この頃からだと思います。
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