第63話 黒い珠
これは妻から聞いたお話です。
ある日の夕方、いつもの様に、妻が息子と食後のウォーキングをしていた時の事です。
夕暮れ時とは言え、まだ日は沈み切っておらず、かなり明るい状態だったそうです。黄昏時くらいの時合でしょうか。
妻達は、住宅街を抜けると水田に沿って続く農道を進みました。農道と言っても、あぜ道の様な細い道ではありません。通常の一車線の道路並みの幅があり、尚且アスファルトで舗装もされています。
農業用の大型機械が行き来出来るよう整備されているのですが、これはウォーキングする者にとっても好都合なんです。
その時は妻が先頭で、彼女の後を息子が追う布陣でした。
しばらく歩いた所で、妻は徐に息子の方を振り向きました。
刹那、妻はぎょっとした表情で息子を見ました。
正確には、息子の背後を。
バスケットボール位の黒い珠が、彼の背後を通り過ぎて行ったんです。
無論、息子はそんな事に気付いていません。
黒い球体・・・ネットで調べてみると、良い存在とは言えないようです。
黒いという点で、イメージ的に厳しい所があります。見方によっては色々と解釈が分かれるようですが、中には、妬みや僻み、恨みを孕んだ霊体との情報も見受けられ、余りいい気はしませんでした。
幸いにも、その後、息子も妻も特に体調を崩したり、不運に見舞われることも無く無事平穏に暮らしています。
ただ、この黒い珠、妻が目撃したのはこれが最初ではなかったのです。
花火大会の夜、民家の屋根近くを飛んで行く黒い珠を、妻は目撃しています。
これも、バスケットボールくらいの大きさだったようです。
最初、妻はUFOだと思ったらしいのですが、後々考えると、飛行している高さが低い上に、大きさが小さ過ぎるのです。
考え方によっては、偵察型UFOの可能性も無きにしも有らずなのですが。
この時、私も一緒にいたのですが、残念ながら目撃はしていません。 少し離れた農道を歩く、電飾首輪をつけた犬に気を取られて、全く気付かなかったのです。
他にも、ウォーキング中の妻の横を通り過ぎて行った事もあったそうです。
ひょっとしたら。
黒い珠は、妻を狙っている?
隙あらば憑依して、体を乗っ取ろうと・・・まさか、そうは思いたくない。
たまたま擦れ違っただけの、通りすがりの浮遊霊なのかもしれないのだから。
でも、それにしてはニアミスが多過ぎるように思えて仕方が無いのです。
今のところ、家まで憑いて来てはいないようですが・・・。
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