第50話 ひゅうううううっ

 これは、妻が以前働いていた職場で体験したお話です。

 その会社には、何故かなにも使われていない部屋がありました。

 そこそこ広く、作業場としても使える位の広さだったんです。

 妻は不思議に思っていたのですが、特に理由を聞くことも無く過ごしていたそうです。

 ある日の休憩中、古参の女性従業員の方が妻にこう囁いたそうです。

「ここって、出るからね。気を付けた方がいいよ」

 出るってのは、勿論・・・。

 それはすぐに妻も察しました。

 そうなると、どこで出るのか気になります。妻はその方に尋ねてみたそうです。 

 返って来た答えが、不思議に思っていた使われていない部屋でした。その方が言うには、幽霊が出るから部屋は使われてないのかもとの事。

 妻はこの話を耳にしてからと言うものの、何かの様でその部屋まで行かななければならない時は、とても怖かったそうです。

 でもその時は、結局何も見なかったし特に変な事も起きなかったらしいのですが。

 それから何日か経ったある日の事。

 その日、休憩中に何人かと話をしていた中で、会社に出る幽霊の話になったんです。

 その時のメンツには、幽霊を見た方はいなかったようなのですが、噂では子供らしいんです。

 妻はその話を興味深く聞き入っていました。

 刹那。


 ひゅううううううっ

 

 甲高い子供の声?

 間近に聞こえたっ!

 耳元で。

 妻は慌てて隣の女性の従業員を見ました。

 同時に、其の方も不思議そうな表情で妻をじっと見つめます。

 彼女も何かを感じ取ったようです。

 この時、この異変を感じ取ったのは妻と隣の方だけ。他の方は誰も気付かなかったようです。

 妻達が休憩していた場所は、例が出ると言われていた部屋ではなかったのですが、ひょっとしたら、自分の事を話していると思って、興味本位に現れたのかもしれません。

 その後、この事業所は移転が決まり、閉鎖されることになりました。

 建屋は壊されずに他の企業に売却されたようです。

 あの時、妻に悪戯を仕掛けて来た子供の霊は、まだあの工場に残っているのでしょうか。

 そしてもう一つ。

 なぜ子供の霊がその事業所の特定の部屋に出るようになったのでしょうか。

 妻は現在、別の会社に転職しており、元の職場の方と連絡を取り合ったりはしていない様なので、この点は分からないままになっています。

 

 

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