第119話 ぶつかるっ!?
これは、私が大学一年の時のお話です。
当時、私は文科系のサークルに入っており、これが終わるのが遅くて下宿先の寮に戻るのが大体夜の八時から九時位でした。何をやっているって訳でもないんですが、サークルでの活動に慣れてきた頃、先輩方と禅問答みたいな会話を交わすようになり、その後、色々あって辞めました。
元々、入部した理由と言うのが、先輩から講義のテキストをただで譲って貰えるとか、過去のテストの資料が貰えるとかに魅かれてですから、不純極まりなかったですね。入部希望時に先輩から理由を聞かれた時には、先輩方の話を聞いて興味を持ったとかなんだとか、それなりの事を答えましたけど。
その日も、なんだかんだで遅くなって、部室を後にしたのは八時を回っていたかと思います。
学校から寮までは約一キロ半くらい。多くの学生が原チャリかママチャリで通っていましたが、私は歩きでした。
元々歩くのが好きでしたし、運動不足解消も兼ねてですね。
民家の間の道をとぼとぼと歩き続け、寮まで残り百メートル足らずの地点。
ここからが難関なんです。
寮に行くには、何車線もある大きな道を渡らなくてはならず、一回の信号で渡り着る事はまず不可能。
交通量も多く、それだけに事故多発地点でもあり、一度、十字路に血溜まりが出来ているのを見つけた事があります。フロントガラスらしき破片も散らばってましたから、恐らくは交通事故直後。ちょっと生々し過ぎるワンシーン。
気をつけないと、明日は我が身です。
おまけに、この道は街灯がほとんどなく、やたらと暗いんですよね。
よく交差点の歩道から突然無灯火のチャリが来たりするので要注意です。
と、案の定来ました。
チャリが一台、音一つ立てる事無く右手の歩道から現れました。
しかも無灯火。
あぶねえな。
腹立たしかったのですが、とりあえず横に避けます。
えっ!
チャリを凝視。
人が乗っていない――まさか?
まさかじゃない。
呆然と立ち竦んだまま、じっとそれを凝視する。
動けない。
余りにも常軌を逸した出来事に、私の思考は完全にフリーズ。
その間も、自転車だけがこちらに向かって来る。
其れもかなり頑丈な、がっちりとした造りの、まるで、郵便局員の方が配達で使っている様な自転車。
でもよく見ると、輪郭が何となく曖昧なのに気が付いた。
もやもやしている。
これは、実体じゃない・・・。
ぶつかる――寸前。
それは、掻き消すように消え失せた。
今のは、何?
自転車の幽霊?
そんなのってあるの?
私は首を傾げ乍ら、自転車が消え失せた空間を見つめ続けました。
正直のところ、私は驚きの余り、恐怖は毛の先程すら感じていませんでした。
よくホラー映画であるような、幽霊に出会った途端に震えあがって一目散に逃げだすなんて、実際には出来ないんじゃないかと思う。まあ、心霊スポットなら、見るかもしれないと言う先入観があるから、違うかもしれませんが。
街中でばったり会うと、結局まず最初に考えるのは、『今の、何? 』何ですよね。
次の日、学校で昨夜の出来事を友人に話したのですが、酔っぱらってたんじゃないのかよと信じちゃくれませんでした。
まず、それはあり得ない。
だって私、お酒が一滴も飲めない体質なのですから。
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