第72話 パワーストーン

 パワーストーンにまつわる不思議な話をいくつか。

 以前、息子が某ファミレスに入店した途端、手首に付けていた水晶のブレスレットが切れて飛び散ったって話に触れたことがありました。

 因みに、このパワーストーン、パワースポットで有名な某神社で授与されたものを私が彼にプレゼントしたものなのですが、渡したのは事態が発生した一か月前。普通なら、そんな短期間で早々切れるものじゃありません。

 息子は霊媒体質で、何かと引き寄せてしまうものですから、ひょっとしたらそのファミレスにいた何かが彼に憑りつこうとしたのを、パワーストーンが防いでくれたのかもしれません。

 その後、息子には同じものを与えたのですが、今のところ飛び散る事無く無事なようです。

 こういった出来事は、実は私も三回程経験しています。

 一回目は単にブレスレッドがよじれて切れたもので、これは明らかに物理的なものでした。地元で開催された綱引き大会に出場した時、うっかりパワーストーンを付けたまま競技に参加してしまい、綱と擦れてきれてしまったんです。

 二回目は、ちょっと不思議でした。

 当時高校生だった息子――霊感零の――を学校まで迎えに行った時の事でした。

 車をゆっくりと駐車場に進めます。

 季節は冬。駐車場は積もった雪が踏み固められて硬くなり、足元が悪い状況でした。

 迎えの予定の時間を過ぎても、息子の姿が見えません。

 きっと車をどこに止めているのか分からないのだろうと思い、私は彼を探すべく車から降りました。

 擦れ違う学生にさり気なく視線を投げ掛けてみる。

 いない。

 歩きながら、何気にデニムのポケットに手を突っ込む。と、何かが弾けた。

 ポケットに入れていたパワースト―ンの糸が切れたのです。

 まさか、息子の身に何か――。

 嫌な胸騒ぎに駆り立てられながら、学校へと向かう。

 居たっ!

 那ぬ喰わぬ顔で、息子が正面から歩いて来る。

「遅かったな、どうしたの? 」

 私は息子に声を掛けました。

「あ、さっきここに来る途中、転んじゃって。怪我はしていないけど」

 彼は、そう照れ臭そうに答えました。

「それって、いつ? 」

「ついさっきだよ。ニ、三分前」

「実はさ・・・丁度その時、こうなった」

 私は息子にばらばらになったパワーストーンを見せ、同じタイミングで糸が切れた事を伝えました。

「え、マジか・・・」

 彼は驚いた表情で、私の掌に納まったブレスレットの残骸を見入っていました。

 偶然なのかもしれません。

 でも、タイミングが余りにも一致し過ぎます。

 息子が転倒した事を教えてくれたのか――いや、それだけじゃないと思いました。

 転んでも無傷で済んだという事は、身代わりになってくれたと考えてもおかしくないと思ったんです。

 最後にもう一つ。

 先述のパワーストーンは役を終えたと言う事で、その後、新しいものを購入しました。これはラピスラズリで、一時期気に入って外出の都度付けていたんですが、少し糸が伸びて来たので、ここのところ部屋にしつらえた神棚の所に保管したままにしていました。

 最近になって、ふと気付いたんですが、いつの間にか糸が切れてばらばらになっていたんです。

 これは、何かが起きる前触れを暗示しているのか、それとも何か大きな災厄から私を守ってくれたのか・・・。

 それとも。

 ただ単に、物理的な条件で糸が切れたのか。

 糸が伸びていたとはいえ、力は加わってませんから、ひょっとしたら温度や湿度の変化が影響したのかなとは思ったのです。

 でも。

 ちょっと心配です。

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る