第126話 ふっ

 これは、今までの話に何回も登場している霊感の強い方の息子が、中学生の時に体験したお話です

 息子の通っていた学校までは、結構距離があったので、天候の良い日は自転車で通学していました。

 通学路は商店や民家が軒を連ねる道なので、夜間も照明は適度にあり、防犯面ではさほど心配は無かったのですが、どちらかと言うと交通事故のほうが心配でした。

 それと、もう一つ。

 途中、妙なものを連れてこないかと言う点も。

 その日、部活を終えた彼は、夜道をひたすらチャリで爆走していました。通学路は街中とは言え、人通りは少なく、街灯はあるものの、押し寄せる闇を全て押しのける訳ではありませんので、注意をしていないとウオーキングをしている方と衝突してしまいます。

 前方を注意しつつ、しかしながら押し寄せる空腹には耐え切れずで、ペダルを漕ぐ足にも力が入ります。

 不意に、彼は顔を顰める。 

 何となく、嫌な気配。


 ふっ


 生暖かい呼気が彼の耳元に掛かる。

 誰?

 誰かが息を吹きかけてきた。

 ペダルを漕ぐペースを落とし、周囲を見渡して見る。

 誰もいない。

 でも、さっきのは確かに人の息。

 それも、若い男の・・・。

 彼の背中を冷たいものが駆け抜ける。


 気持ち悪っ!


 息子の意識を、この上ない不快感が埋め尽くす。

 そこからは今までに増してペダルを漕ぎ倒し、その場を離れた。

 恐怖心よりも不快感が先走る息子には驚きですが、息を吹きかけた男の霊が意図するものは何なのか・・・。

 こいつはきっと見えるに違いないから、悪戯してやろうなのか。それとも、そっちの趣味のある方で、亡くなってからも尚、欲望に突っ走っているのか。

 息子に聞くと、この体験は後にも先にもこの一回だけだそうです。

 恐らく、通りすがりの浮遊霊にでもかまわれたのでしょうね。

 

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